評・通崎睦美(木琴奏者)
本書は、今年演奏活動40周年を迎えるピアニストが10人の若手音楽家に「成功の秘訣(ひけつ)」をインタビューしたもの。文筆家としても活躍する著者は、これまで主に「ピアノ界」にまつわる話を書いてきたが、今回は、ヴィブラフォンを得意とする打楽器奏者・會田瑞樹、三絃(三味線)奏者・本條秀慈郎など、クラシックの王道からすればニッチな分野にまで触手を伸ばす。音楽を始めたきっかけやターニング・ポイントなど、彼らの来歴がそれぞれに興味深い。
女声の音域を持つ歌手、カウンターテナーの村松稔之は、発展途上の声種に自身が戸惑いながらも一歩を踏み出した。声に対するコンプレックスがあったからこそ声に対する執着が強いと話す。著者が「仕事していくうえでむずかしいですよね。経済的にいちばん安定している合唱団に入れない。定番の聖歌隊のアルバイトもできない」と水を向ければ、「オペラの役も少ないから、カウンターテナーは2人いればじゅうぶん」と告白する。
一方、19歳の時、最高峰ランパル国際コンクールで優勝したフルート奏者・上野星矢が勝ち抜いたミュンヘン音大大学院入試は、倍率200倍。上野は、演奏人口の多さを活かし、アマチュア、プロの垣根なく世界の超一流講師に習える講習会など企画にも力を入れる。
古楽界のヴァイオリン奏者・佐藤俊介は、後進に向けて、自分のまわりのものに対して「なぜか」と問いかけ、自分でその答えを出して欲しいと話し、指揮者・川瀬賢太郎は、相手のことを思う気持ちを大事にする、そういった人間として当たり前のことをちゃんと自分の心に降ろしてきて立ち振る舞うことが大切だとアドバイスする。
キャリアデザインには「戦略」のイメージが伴うが、皆さんに共通するのは、信念を持って音楽の道を突き進んでいること。数年後の彼らはどんな道を歩んでいるだろう。著者による続編を読んでみたい。