2014年前半の予定

メルド日記愛読者のみなさん、明けましておめでとうございます。
2014年も半月をすぎてしまったが、今年前半の予定をお知らせしよう。

ちょうど、1月25日刊行の中公文庫『我が偏愛のピアニスト』の見本が届いたところである。海老彰子さん、岡田博美さん、小川典子さん、小山実稚恵さん、花房晴美さん、柳川守さんなど日本人ピアニスト9人にインタビューしたものをまとめ、最後に同級生の練木繁夫さんとの対談を加えたもの。宇野亜喜良さんの装丁がおしゃれで、作家の三木卓さんの解説は感動的! 単行本よりぐっとお値段が下がったので、未読の方はぜひこの機会に手にとっていただけたら幸いである。

1月20日にはパリに発ち、25日にはナンテールの斉藤まゆみさんのサロンで、31日にはマルセイユのバルビゼ未亡人のサロンでジョヴァニネッティとのデュオ・リサイタルを開く。曲目はモーツァルトのソナタ2曲。私のソロでドビュッシーの前奏曲集第1巻から8曲、CDアルバム『ミンストレル』に入れたオーリッジ=ドビュッシーの『セレナーデ』とドビュッシーのピアノ曲から編曲された『レントより遅く』『ミンストレル』。そして『ヴァイオリンとピアノのためのソナタ』である。

恩師バルビゼの未亡人は目が少し不自由になったもののすこぶるお元気で、冬のシーズンにはバルビゼ門下やマルセイユ音楽院出身の錚々たるアーティストたちが彼女のサロンで演奏するためにやってくる。バルビゼが弾いていたピアノがまだ保存されており、演奏するのが楽しみなような、ちょっと怖いような。ジョヴァニネッティもマルセイユ音楽院出身なので、未亡人やその友人たちの前で久しぶりに演奏できるのを心待ちにしている。 そのあとは、バルビゼと初めて会ったニースに立ち寄り、コートダジュール近辺を散策してセンチメンタル・ジャーニーを楽しむつもり。

3月15日(土)には、安川加壽子記念会の第11回コンサートとして、「フレンチ・ピアニズムの系譜」の企画・トーク&ナビゲーターをつとめる。昼の部は14時開演、夜の部は18時3分開演で、それぞれ安川記念コンクールの入賞者が演奏したあと、安川先生と同年代や先輩・後輩のピアニストたちの貴重な映像を紹介しながら、私が解説をつとめる。

89歳の現在でもすばらしい演奏をきかせてくれるアルド・チッコリーニはお得意のサティ『ジムノペディ第1番』、フランスのエスプリの代表格ロベール・カサドシュはフォーレの『主題と変奏』を解説しながら弾いている。日本人門下生も多いヴラド・ペルルミュテールは作曲者直伝のラヴェル『トッカータ』。サンソン・フランソワの先生のイヴォンヌ・ルフェビュールは18番だったベートーヴェン『ソナタ第31番』、ブラジル出身のマグダ・タリアフェロはドビュッシー『金色の魚』と『花火』。

ルフェビュールやタリアフェロの先生のアルフレッド・コルトーは『子供の領分』で人形芝居つきのかわいらしい映像のピアニストをつとめている。ルフェビュールとコルトーに師事したサンソン・フランソワはラヴェル『左手のための協奏曲』。最後に恩師安川加壽子先生の演奏で、ラヴェル『水の戯れ』とショパン『アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ』。その前に、先生と奏法ピアニズムが驚くほど似ているマルタ・アルゲリッチの『水の戯れ』もご紹介する。
昼・夜とも同じプログラムなので、お出かけになりやすい時間帯で、古きよき時代のフレンチ・ピアニズムの粋をお楽しみいただければ幸いである。
http://www.shin-en.jp/schedule20140315/img/flier.pdf
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3月22日(土)には、紀尾井町サロンホールでJMLセミナーのフランス音楽専門講座20周年記念コンサート「音の美食家たち」も予定されている。ドビュッシーのピアノ曲のよりよい解釈を求めて開講したのが20年前。テーマをフランス音楽全般に拡げたのが10年前。午前・午後10名ずつのグループ・レッスンで、現役のピアニスト、音大生、ピアノ教師、作曲や楽理科出身者、趣味の方などさまざまだが、フランス音楽と美しい響きを愛する点ではかわりない。私も『小組曲』の連弾で参加する。

5月25日には、これまで文芸誌『すばる』や『文学界』、美術誌『芸術新潮』などに発表してきた音楽祭やコンサートのレポートをまとめた本が、中央公論新社から刊行される。とりあげた音楽祭は『別府アルゲリッチ音楽祭』や『サイトキネン・フェスティヴァル』『女性作曲家音楽祭』とアルカン・生誕200年記念連続コンサート。『ラ・フォルジュルネ音楽祭』では、聴衆として聞き歩いたレポートと、出演者としてのレポートの二種類がある。とりあげた演奏家は内田光子、ポリーニ、バレンボイム、そしてフジ子・ヘミング。フジ子を真正面から論じたものは、少なくとも紙の本ではあまり見かけない。また、サイトウキネンでは、ジャズ・ピアニスト大西順子さんのジャズ勉強会を取材している。ジャズ音痴の私としては猛勉強の一週間だった。

6月4日(水)には、ショパン協会主催の音楽祭で「ショパンとベルカントのオペラ」の企画&トーク・ナビゲーターをつとめる。ショパンのノクターンなどに見られる華麗なフィギュレーションとロッシーニ、ベリーニなどのアリアの即興的変奏とのかかわりを、ソプラノの森朱美さん、ピアノの江崎昌子さんのご協力を得て探る画期的な試みである。

前々から企画していたが、演奏至難で知られるベルカントのアリアを歌ってくださる方が見つからず、のびのびになっていたものだ。私たちピアノ弾きは、楽譜に音符として記されていると「そのとおり忠実に」弾かなければならないと勘違いしてしまいがちだが、ベルカントの歌手は今でも、基本的な音符に即興で華麗な装飾をつけて歌うのが常識とか。森さんには、ショパンのピアノ曲のもとになったロッシーニやベリーニのアリアの他にも、有名な『ノクターン作品9-2』をベルカント風に即興して歌っていただくことになっている。ちょうどこの日は私の誕生日! 念願の企画を果たして大いに盛り上がりたいところだ。

いつもはもう少し長々と書くのだが、パリ行きの荷物がまだできていないのでこのあたりで。

投稿日:2014年1月18日

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「MERDE/メルド」は、フランス語で「糞ったれ」という意味です。このアクの強い下品な言葉を、フランス人は紳士淑女でさえ使います。「メルド」はまた、ここ一番という時に幸運をもたらしてくれる、縁起かつぎの言葉です。身の引きしまるような難関に立ち向かう時、「糞ったれ!」の強烈な一言が、絶大な勇気を与えてくれるのでしょう。
 ピアノと文筆の二つの世界で活動する青柳いづみこの日々は、「メルド!」と声をかけてほしい場面の連続です。読んでいただくうちに、青柳が「メルド!日記」と命名したことがお分かりいただけるかもしれません。

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