【CD評】「ロマンティック・ドビュッシー」レコード芸術 2010年11月号 新譜月評

新譜ぴっくあっぷ

濱田慈郎 [推薦]

しばらく間を置いて現われた青柳いづみこの新譜は、昨年暮に録音された、すべてドビュッシー作品のアルバムである。それもドビュッシーがおおよそ “19世紀のうちに″ 書き綴った初期作品を集めて編み、タイトルどおりロマンティックな雰囲気を湛えたアルバムとしている。

冒頭の《バラード》が鳴り始めると、聴きては必ずや「なんとシックなピアノだろう」と感じるに違いない。つづく《2つのアラベスク》以下、《夢》、《マズルカ》、《ワルツ》といった小品を通じ、なんとも “板についた” としか言いようもない、デリカシーにあふれたピアニズムには、深く惹き込まれぬわけに行かない。これらの作品に、のちの《前奏曲集》、《練習曲集》の独創性がまだ欠けていると見ることは容易だし当然でもあるが、こうした演奏で聴くにつけ、これら初期作品はまたこれらで、独自の “いのち″が息づいていることをはっきりと感得できる。

後段は2つの組曲、《ピアノのために》と《ベルガマスク》だが、演奏は尚更に冴えてゆく。ニュアンスの深さ、鮮やかさから、古今一流の域に達した奏楽だと、ドビュッシーの国の識者たちをも含め、万人が認めるのではなかろうか。〈月の光〉はそれこそ月そのもののように美しい。つづく〈パスピエ〉は、当初〝パヴァーヌ″と名付けられていた由。そのことを考慮してか、通常よりいくらか遅めのテンポで弾かれている。末尾に置かれた《夜想曲》もなかなかに意味深い作品だ。

那須田務 [推薦]

青柳いづみこのカメラータ3作目。1作目は《練習曲集》《版画》《(忘れられていた)映像》を収めていたが、ドビュッシーの研究と演奏をライフワークとしているピアニストならではの説得力があり、余人をもって代えがたいものだったが、今回のアルバムも期待を裏切らない内容である。

青柳自身がライナー・ノーツで述べているように、「ドビュッシーの秘められたロマンティシズムに焦点を当てた」選曲。《2つのアラベスク》、《夢》などの他、ショパンのロマンティシズムへの傾倒を示す《マズルカ》や《ロマンティックなワルツ》等が収録されている。よくありがちな名曲アルバムのようでいて、その実入念に組み立てられている。

青柳の演奏は一見、奇をてらわないオーソドックスなもの。〈トッカータ〉なども最近のフランスのピアニストたちのような響きの明晰さや鋭いエスプリとも違う。何気なく弾かれたような風情と雰囲気と情感に満ちているのは、アルバムのコンセプトからして当然だが、同時に《ピアノのために》に、同時期に作曲中の《ペレアスとメリザンド》との関連性を見出すなど、独自の視点による解釈がなされそれが湿った質感とともに (たとえば《夜想曲》)、この演奏に唯一無二の個性と存在感を与えている。

絵画に譬えれば原色の強い色彩ではなく、優しい筆遣い。《ベルガマスク組曲》には、ワトーを始めとするフランス・ロココ芸術に通じる風雅な趣がある。

神崎一雄 [録音評]

ピアノとの間に適切な距離を取って聴く趣の収録である。ピアノ音像は中央に広がりすぎることなく,ほどよいサイズ感で定位して、左右のスピーカー・システム間を走り回ることはない。温かい残響を伴う音場感がピアノを包んで、なかなか自然な佇まいを醸し出している。優しい響きを伴うピアノが “そこに” ある。三重県総会文化センターでの2009年12月の収録。(90~93)

ロマンティック・ドビュッシー
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