【Report】《樹原涼子》を弾きたいVol.4(ムジカノーヴァ2024年5月号)

色とりどりの音色で 樹原作品を楽しむプログラム

第4回ゲスト青柳いづみこ
取材・文−長井進之介

「《樹原涼子》を弾きたい」シリーズは、2017年から開始したトーク&コンサート。ゲストピアニストが作曲家・樹原涼子の作品を演奏するのはもちろん、作曲家と演奏家がそれぞれの視点から楽曲について語り合い、作品についてさらに理解を深めることができる人気企画である。第4回のゲストは青柳いづみこ。ピアノ曲集『やさしいまなざし』と連弾組曲集『時の旅』が取り上げられた。

第1部は『やさしいまなざし』。幅広い年齢層が演奏可能な曲集だが、左手のみで演奏される第1曲《ふたり》をはじめ、小節線を使わずに書かれた楽曲やポリリズムの使用にミニマルミュージックの要素まで取り入れられているものまで、非常にバラエティに富んだ内容となっている。しかもそれが美しい旋律と魅力的なハーモニーのなかに自然と取り入れられており、普段よく取り上げられるクラシックの作品とは違う響きや語法に、まったく違和感なく入り込んでいくことができるのだ。19世紀後半以降の新しい響きやテクニックの作品を演奏する前にこういった曲に触れることで、印象派以降の作品をより理解して演奏できるのではないだろうか。青柳の多彩な音色、フレーズの扱いの丁寧な演奏によって作品の魅力が輝いており、音楽的な演奏を目指すピアニストや学習者にはぜひ積極的に演奏してほしい曲集である。

第2部は、ピアニストの西本夏生を迎えての連弾組曲集「時の旅」。この曲集には子どものための《小さな時間旅行》と大人向けの《美しい時間》、二つの組曲が収録されている。《小さな時間旅行》は物語仕立てで、当日は作曲者である樹原による朗読と共に進行。ドビュッシーの作品などを演奏するまでなかなか触れる機会のない旋法が物語の核となり、また情景を鮮やかに示す役割も果たしている。この響きに子ども、もしくは初心者の段階で触れておくことは、フランスの作品を触れる際にやはり大きな助けとなる。ぜひ日常のレッスンに積極的に取り入れてほしい曲集だ。

《美しい時間》は高度な技巧やリズムの要素が散りばめられた作品だが、曲の根幹を成しているのはやはり聴く人の心をつかむ旋律と色とりどりのハーモニー、そして二人の奏者の会話のようなかけあいだ。連弾はアンサンブル能力の向上はもちろんだが、もっと音色を作る、聴くための重要な学びの場にもなる。今回青柳と西本の多彩な表情と即興性のあるかけあいによって、改めてその魅力を実感することができた。

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