ドビュッシー研究の第一人者である青柳いづみこさんが、ドビュッシーの没後100年に向けて意欲的に行っているカウントダウンコンサートが今年も開催される。
今回は、ドビュッシーが他界する前の年にあたる1917年に弾いた曲、聴いた曲、校訂した作品にスポットを当てた、その名も『1917年のドビュッシー〜最後のコンサート〜』。この年ドビュッシーは5月にパリ、9月にサン=ジャン=ド・リューズでコンサートを行っていた。
「第一次世界大戦の直中で、直腸がんの手術を受け、それまで創作活動ができない時期が続いていたのですが、1917年に《ヴァイオリンとピアノのためのソナタ》を書き上げ、5月のコンサートで初演しました」この初演を支え、最後のコンサートで共にステージに立ったのは、ヴァイオリニストのガストン・プーレ。ドビュッシーはこの曲を作るにあたり、ガストンにヴァイオリン特有の技法を聞いたり、アドバイスをもらっていたのだそう。そんなドビュッシーが全面的に信頼を寄せていたガストン・プーレの息子である、ジェラール・プーレさんが、父とドビュッシーの初演から100年の時を経て、青柳さんとこの曲で共演するのだ。
「ジェラールさんとは二度ほど共演させていただいていますが、権威でいらっしゃり、全て熟知されているので、たくさんのことを学びました。
この曲は難しい曲でもあります。ソナタというのは、二つのテーマを展開させていくわけですが、ドビュッシーは時々、全く新しいものを持ってきて無理矢理連結させるので、弾いている方も『あれ?そっちにいくの!?』と思うことがしばしば(笑)。曲自体は短いですが、思いがけない発展をするので、短い中にもいろんな要素が詰まっています」
青柳さんは今回、17年5月のコンサートで演奏された歌曲《フランソワ・ヴィヨンの3つのバラード》や、《もう家がない子たちのクリスマス》などを、ソプラノ歌手の盛田麻央さんと。ドビュッシーが称賛したストラヴィンスキーのバレエ音楽《ペトルーシュカ》の連弾版を、このシリーズでもおなじみの作曲家・ピアニスト高橋悠治さんと共演する。
「ドビュッシーの歌曲は、ソプラノには低すぎたり、メゾソプラノには高すぎたりで、なかなか歌ってくださる方がいない中、盛田さんはどちらの音域もカバーできる非常に幅広い声域をお持ちで、しかもフランス語のディクション(発音)、が素晴らしい!まさにピッタリな方です。
高橋さんとは何度もご一緒していますが、よくぶつかり合っています(笑)。アンサンブルに対する考え方や楽譜の読み方も全然違いますので、そういった意見をお互いに交換し、時に歩み寄ることで、予定調和でない、より良いものができると思います。
ドビュッシーが自分の作品を弾いた最後のコンサートをテーマに、彼の最後のメッセージをわかりやすくお届けしたいと思います。ドビュッシーは、単にきれいなだけの音楽を書いた人ではありません。人間のさまざまな感情に分け入った彼の音楽は、ベートーヴェンとはまた違った意味で深い感動を呼びます。そういったドビュッシーの奥深さをこのコンサートで体感していただきたいです」
(文◎編集部竹中郁恵)