【インタビュー】樹原涼子&青柳いづみこトーク&コンサート 「《樹原涼子》を弾きたい」シリーズ第4回にむけて(ムジカノーヴァ2024年2月号)

ききて・まとめ 長井進之介

 2017年に始まったトーク&コンサート「《樹原涼子》を弾きたい」シリーズ。ゲストピアニストが”作曲家・樹原涼子”の作品を演奏し、作曲家がどのような想いを込めて曲を作っているのか、演奏家は楽譜とどのように向き合い表現をしているのか、それぞれの視点から語り合う人気企画です。これまで様々なピアニストを迎え、3月に開催される第4回には青柳いづみこさんが出演します。それぞれの意気込みやお互いへの想いを語っていただきました。

青柳先生の演奏に飛び跳ねで歓喜

−このシリーズが始まった経緯を教えていただけますか。

【樹原】 音楽之友社でたくさん子どものための作品を書かせていただくなかで、大人のための曲集を書きたいという想いが生まれ、『こころの小箱』『時の旅』、そして『やさしいまなざし』などができました。でき上がった作品はピアノの先生がよく取り上げてくださるのですが、ぜひピアニストに演奏会で弾いていただけたら……という想いがあったとき、宮谷理香さんが弾いてくださったことをきっかけにこのシリーズが始まったのです。

− 第2回は館野泉さん、第3回は小原孝さんが出演され、今回は青柳さんを迎えます。

【樹原】 以前から私がずっと青柳先生のファンで、セミナーやコンサートなど、行けるものにはどんどん伺っていたのですが、あるコンサートで青柳先生がピアノ曲集『やさしいまなざし』の第2曲《やさしいまなざし》を弾いてくださったのです。

【青柳】 2013年に出版されたとき楽譜をいただき、とても素敵な曲だなと思って、ひと月後にヴァイオリンのクリストフ・ジョヴァニネッティさんと日仏会館で弾いた際にアンコールで演奏しました。会場の後ろの方で樹原さんがぴょんぴょん飛び跳ねていらっしゃったのをよく覚えています(笑)。

【樹原】 演奏してくださったことが予想外だったのです。すごく感激しました。自分の曲なのに、青柳先生の演奏を聴いて、「こういう曲だったんだ!」という発見がありました。またそのときのピアノがベヒシュタインだったのもとても印象深かったですね。

【青柳】 安川加壽子先生が選定された、日仏会館のべヒシュタインですね。

【樹原】 実は、私が大人のためのピアノ曲集を書き始めたのが、ベヒシュタインのピアノを購入してからだったのです。ですから余計に嬉しくて。ただ、なかなかそのあと「私の作品を弾いていただけませんか」と言い出すことはできずにいたのですよね。ですが2018年に『時の旅』が出た際にお送りしてすぐ後、青柳先生の書籍のイベントに伺ったときに…..

【青柳】 私から「弾きたい」と言いましたね。その年はドビュッシー没後100年で、今回コンサートでご一緒する西本夏生さんと『ドビュッシーの墓』のCDを出したところで、ぜひ彼女と連弾で樹原さんの『時の旅』を弾きたいと思ったのです。

【樹原】 ものすごく嬉しくて。それで、ぜひ次の「《樹原涼子》を弾きたい」にご出演いただきたいとお話ししたのです。そのあとコロナ禍になってしまったので、数年越しになってしまいましたが。

嘘のない樹原作品を理想的な演奏で

−樹原さんの青柳さんに対する並々ならぬ想いが伝わってきます。そもそも青柳さんのファンになられたきっかけは何だったのですか?

【樹原】 コンサートでお聴きした、青柳先生の奏でる音の世界にものすごく惹かれました。どうしてもピアノの世界、特にコンクールなどではテクニックを魅せることに重きが置かれてしまいますが、作曲家の立場から言えば、繊細なニュアンスや響きのバランス、音のつながりを表現してほしい。青柳先生の演奏は私の理想を体現したものだったのです。曲ごとはもちろん、一曲の中でも様々な対比が聞こえてきます。ピアノを学ぶ人はこういう音を聴いて耳を開いてほしいので、積極的に生徒を誘って青柳先生のコンサートやレクチャーに行くようになりました。

一青柳さんは樹原さんの作品にどのような魅力を感じていらっしゃるのでしょう。

【青柳】 樹原さんの作品は、最初に弾かせていただいた『やさしいまなざし』に小節線がないのをはじめ、ミニマル、左右の手で違うビートを刻むなど、20世紀以降の音楽語法を自然に取り入れていらっしゃいます。しかもそれが美しく洗練された旋律やハーモニーの中に溶け込んでいるのがとても素敵です。また今度演奏する連弾組曲『小さな時間旅行』ではドビュッシーも好んだ旋法が使われていますし、連弾組曲『美しい時間』ではジョン・ケージの作品のように演奏者が演技するところもありますね。

【樹原】 意識的に現代の奏法や書法を取り入れようとして書いたわけではなく、今の時代、私の感性をそのまま散りばめた結果です。奏者が演奏中に寝落ちする演技も、作曲中に息子と連弾したときに実際あったことを取り入れてみたものでして(笑)。すべてが私の中にあるものや生活の中から生まれたものなのです。

【青柳】 そう、樹原さんの作品には嘘がない。これがまた魅力なのです。だからこそ心から共感して演奏することができるのだと思います。

【樹原】 これほど楽譜から想いを読み取って演奏してくださることは、作曲者にとってこれ以上ない喜びです。今回の演奏会で、きっとまた私自身も知らなかった作品の新たな世界に出合うことができると思うので、とても楽しみです!

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演奏楽譜 樹原涼子作曲 音楽之友社刊
連弾組曲集 時の旅
税込 1,870円
お互いの音楽性を感じ合い触発し合い一緒に作り上げていく、まさに「本来の連弾」を体得することができる曲集。

ピアノ曲集 やさしいまなざし
税込 1,980円
シンプルでピュアー、異国的なのにどこか懐かしい。次の時代のクラシックを目指したピアノ曲集。

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