【インタビュー】「ドビュッシーは最後に何を聴き、何を弾いたのか?」(ぶらあぼ2017年9月号)

名手たちとの共演で多彩な内容を再現

ドビュッシーは来年没後100年を迎える。晩年の活動の軌跡を浮き彫りにしようと、青柳いづみこは2014年からカウントダウン企画のコンサートシリーズを自ら行ってきた。今年は〈1917年のドビュッシー〜最後のコンサート〜〉と題し、最晩年に作曲家が「弾いた曲、聴いた音楽、校訂した作品」に光を当てる。

共演者も実に豪華だ。ドビュッシーのヴァイオリン・ソナタをドビュッシー自身と初演したヴァイオリニスト、ガストン・プーレを父に持つジェラール・プーレ、そして作曲家・ピアニストの高橋悠治がコンサートの最初に登場する。

J.S.バッハの「ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ第2番」という意外な曲での幕開けだが、実はドビュッシーは晩年にこの作品の校訂を行っている。

「1917年4月に校訂を終えたとデュランに報告しています。ドビュッシーは、バッハを敬愛していたショパンの孫弟子にあたり、学生時代から心を込めてバッハを演奏して周囲を驚かせていました。プーレさんと悠治さんは同い年で、コンサートの時点で79歳。お二人の初共演にぜひ注目していただきたいです」

前半2曲目は、ドビュッシーが愛したストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」連弾版を披露する。

「よく知られるピアノ独奏版に『ペトルーシュカからの三楽章』があります。この版は超絶技巧ばかりが目立ち、バレエで描かれるペトルーシュカの悲しみ、人形が人間になれない悲哀が薄められています。連弾版はバレエ全体の編曲なので、技巧の強調よりも、むしろ人形の不器用さやギクシャクした感じ、とくにペトルーシュカが最後に幽霊になる場面の悲哀を悠治さんと表現します。私たちは楽譜の読み方のスタンスが違うので、ときに大喧嘩しながら結構楽しく作り上げてきました」

ちなみに、会場ではこの2人の連弾によるCDも販売される予定。

《アッシャー家の崩壊》の片鱗

さて、後半は歌曲「フランソワ・ヴィヨンの3つのバラード」でスタート。青柳が絶賛するソプラノ盛田麻央と共演する。「ヴィヨンは窃盗や殺人を繰り返した15世紀の実在の詩人。彼が母を思い、神に祈った言葉をテキストにした第2曲は、とてもピュアで感動的な作品です」と熱く語る。

未完のオペラ《アッシャー家の崩壊》から〈マデリーヌのアリア〉が聴けるのも貴重だ。

「このアリアに登場するモティーフは、『ヴァイオリンとピアノのためのソナタ』にも登場します。ソナタの重要な循環主題も《アッシャー家〜》からとられたもので、2つの作品には大きな関連があるのです」

ヴァイオリン・ソナタは1917年5月5日に、体調悪化の中で初演された作品。コンサートでは演奏前に青柳とプーレが、曲の成り立ちや初演時の様子について解説する。

「ドビュッシーの晩年の書法はあまりに新しく、悠治さんによれば『1960年代くらいまで進んでいる』とのこと。しかし彼は、”聴覚的な自然さ”からは最後まで逃れることはできませんでした。あくまで自然倍音列に従った和音を重んじ、耳をつんざくような人工的な響きや書法を受け入れなかった。ドビュッシーが目指した音楽は、”有機的でありながら斬新なもの”そして”形式でも書法でもなく、色彩と律動づけられた時間”でした。もう少し長生きして作品を生み出してほしかったですね」

没後100年を前に、改めて晩年の響きに耳を傾けたい。来年は命日前日の3月24日に公演を予定。「前奏曲第1巻」を取り上げることが決まっている。

(取材・文:飯田有抄)

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