迎賓館赤坂離宮 エラールピアノ演奏(2025年3月8日付 毎日新聞)

迎賓館赤坂離宮「幻のピアノ」
天にも昇る 典雅な調べ

海外からの賓客をもてなす迎賓館赤坂離宮(東京都港区)に、国内に数台しかないと言われる「幻のピアノ」がある。外交の舞台となる華やかな空間で6年前に始まった演奏会は、抽選倍率が10倍を超えることもある人気イベントに。長く使われずにいたピアノの活用を推進したのは、ある政治家だった。

このピアノは仏「エラール」社の1906年製で、天皐家の印である菊花紋章の装飾が描かれた特注品だ。香淳皇后が塵太子妃時代に愛用され、戦後に一時皇居に移されると、ほかの皇族方にも親しまれたという。

エラールは、かつてフランスを代表するピアノメーカーだった。18世紀後半に製造を始め、連打を可能にする「ダプル・エスケープメント」構造を初めて導入。マリー・アントワネット王妃に献上されたほか、ショパンやリスト、ベートーベンら、名だたる作曲家に重宝された。

しかし、戦後に他社と合併し、工場を閉鎖。現在は製造されておらず、日本では赤坂離宮やサントリーホール(港区)、新潟県三条市など数力所にしか現存しないとされる。

2月中旬、エラール・ピアノを見ようと記者が赤坂離宮を訪れると、2階の「羽衣の間」からうっとりするような調べが聞こえてきた。文筆家でもあるピアニスト青柳いづみこさん(74) が演奏する「ノクターン」などに約70人が聴き入っていた。

まず自に飛び込むのがクリスタルガラスを中心に約7000個のパーツからなるシャンデリア。謡曲「羽衣」を題材にした天井画も見える。壁には琵琶や鼓のモチーフが組み合わされた金色のレリーフが施され、絢爛豪華な室内に圧倒される。白を基調としたエラール・ピアノは側面に花模様が描かれ、温かな雰囲気。修復を経たピアノの音色はクリアかつ豊かで、会場はしっとりとした響きに包まれた。

演奏会はこの日が56回目。青柳さんは「まずは『羽衣の間』にいる幸せを感じ、日常生活を忘れて典雅な気分に浸ってほしい」と話す。

赤坂離宮は1909年、時の皇太子(後の大正天皇)の住まいである「東宮御所」として建てられた。戦後はさまざまな政府施設に用いられ、74年に迎賓館として開館した。フランスのベルサイユ宮殿をほうふつとさせる荘厳なネオ・バロック様式で、2009年に国宝に指定されたが、以前は年に10日間ほどしか公開されない「開かずの扉」だった。

16年度から約150日間の一般公開へ踏み切ったのは、第2次安倍晋三政権の菅義偉官房長官だ。菅氏は「観光立国」を持論とし、自らのフェイスブックに「迎賓館を広く公開し、多くの国民や外国人観光客に日本の歴史・文化を深く楽しんでいただくことは、安倍政権が進めている『観光立国』のシンボル的な意味があります」と記した。

内閣府によると、16年度は約75.5万人、17年度は約58.3万人、18年度は約51万人が見学。新型コロナウイルス禍の20年度は約5.9万人まで落ち込んだ。24年度は2月までの11ヶ月で約32.1万人が訪れた。そんな中、変わらぬ人気を誇るのがピアノ演奏会だ。菅氏は赤坂離宮の一般公開とともに、長らく演奏されず眠っていたエラール・ピアノを修復して活用する策を決定。19年7月から演奏会が始まった。

参観できる「羽衣の間」は79年の主要国首脳会議(東京サミット)や、22年の岸田文雄首相(当時)とバイデン米大統領(同)の共同記者会見にも使われた。チケットは毎回全席完売する盛況ぶりだ。

24日〜27日にはブラジルのルラ大統領が国賓として訪日し、赤坂離宮がもてなしに使われる可能性がある。伊藤信館長は「多くの方に外交の舞台を見ていただけるように工夫したい」と話し、リピーター獲得に向け来年度の企画を準備している。(内田帆ノ佳)

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