【コンサート評】ドビュッシーの幻のオペラ《アッシャー家の崩壊》(音楽の友 2019年3月号)

《アッシャー家の崩壊》は、エドガー・アラン・ポーの同名の小説をもとに、ドビュッシーが取り組んだ未完のオペラだ。ドビュッシーはこの怪奇小説のオペラかを切望し、自ら台本を書き上げたが、音楽は半分ほどしか残されていない。今回はその補筆を作曲家の市川景之が試みた。ピアノ伴奏は青柳いづみことの連弾。

配役は、不安と狂気にさいなまれる兄・ロデリックに現代声楽曲のスペシャリスト・松平敬(Br)、亡霊のようにさまよう妹・マデリーヌにまろやかな美声の盛田麻央(S)、悪魔的な医師に根岸一郎(Br)、そして恐怖に翻弄されるロデリックの友人に森田学(Bs)。音楽はドビュッシーの弦楽四重奏曲を思わせる不気味なテーマとともに始まり、この作曲家らしからぬ重苦しい情念がまとわりつく。コンサート形式での上演ながら字幕の視覚的工夫や歌手たちの立ち振る舞いが舞台に奥行きを与え、聴き手を物語りに引き込んだ。

プログラムの前半は、ドビュッシー「交響詩《海》」のカプレによる6手2台ピアノ版が聴きもの。《海》には作曲家自身の連弾版やカプレによる2台ピアノ版があるが、6手版は未刊で今回が日本初演。第1ピアノが森下唯、第2ピアノが青柳と田部井剛というピアニスト3名による圧倒的なサウンドが、この管弦楽屈指の名作のさまざまな情景を浮かび上がらせた。ほかに《海》との関連が推察されるピアノ曲《スケッチ・ブックから》、歌曲集《ビリティスの歌》《眠れない夜》も演奏された(1月11日・Hakuju Hall)
(工藤啓子)

アッシャー家の崩壊
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