プレトーク
ドビュッシーの音楽、人生をできるだけ正確に伝えたい
ドビュッシーのスペシャリスト。それは演奏においても執筆においてもそうだ。
「創作活動によって何をしようとしていたのか、知りたくて仕方のない存在。彼の作品を演奏したり、彼について書くことによって、もっと深く探っていきたい存在。彼は言葉を音楽にしようと腐心した人でした。でも、それは非常にむずかしいこと。あまり知られていませんが、未完の劇作品をたくさん残しているんですよ。彼のそんな『もがき』に親近感を持っているんです」
みずから企画・プロデュースし、演奏する『ドビュッシー・シリーズふたたび』(全4回)を立ち上げる。
「プロデュースと演奏の両立は大変なので、いつも四苦八苦しています。とはいえ、お客さまにその音楽だけではなく、人生や表現したかったことを正確にわかっていただきたいと思うと、やはり自分ですべてを引き受けなくてはならなくなってしまう。
私がドビュッシー演奏を始めた1989年当時には、ドビュッシー作品だけの演奏会など考えられませんでした。いまは弾く方も増え作品も広く知られるようになってうれしい反面、演奏家としてのハードルが高くなったわけでもありますから、プレッシャーも感じています」
今回のシリーズはほかの作曲家の作品や美術とのコラボレーション、多彩な共演者も登場する、バラエティに富んだ企画となった。
「第1回はドビュッシーの持つ西洋の時間の流れと、武満の東洋の時間とを対比させようと思いました。武満はドビュッシーやメシアンから影響を受けながらも、東洋の音楽の要素をとりいれ、西洋で認められた人。名ヴァイオリニストのプーレさんには、演奏だけではなく、お父さまが初演されたドビュッシーのソナタの秘話も語っていただきます」
第2回は「ドビュッシーとパリの詩人たち」。ソプラノ歌手の野々下由香里をゲストに歌曲を紹介する。
「ドビュッシーの文化的な背景がテーマ。若い頃の彼は文芸サロンに出入りし、最先端の詩人たちと交流していました。私のナビゲーションで、音楽物語のような構成にしたいと思っています」
第3回は「クラヴサン音楽とドビュッシー」で、彼女のソロ。
「ショパンの弟子に習った彼は、ショパン全集の校訂を機にエチュードを書きました。また、パリ万博では、蘇演されたクープランの作品に触れ、その魅力をひろめようとしました。『12の練習曲』にはそれらの要素が流れこんでいます」
締めくくりの第4回は伊砂利彦の型絵染作品をステージに映してのピアノ・ソロ。
「彼は友禅の染め物職人の家に生まれたアーティストで、クラシック音楽にインスパイアされた作品も制作しています。前奏曲集の全24曲のための24枚の作品があるんですよ。京都とパリでも同じ企画で演奏し、好評だったものです」
このシリーズ以外にもさまざまなアイディアをあたためているという。これからの活躍にも注目したい。
*発表会やレッスンで弾いて印象に残っている曲
ドビュッシーの『アラベスク』。小学校4年ぐらいで弾きました。スコア・リーディングを習っていた作曲の先生に「あなたの演奏にはほかのクラシックの作品にはない色彩感がある」と言われて、印象に残りました。