「一緒に飛んでふわっと着地したい…」――リサイタル「浮遊するワルツ」開催
ピアニストと文筆家の二足のわらじを履いている青柳いづみこ。聞けば「双子座」という分裂した星の下に生まれたという。
「もともと書くことが大好きだったんです」。幼いころから続けてきたピアノの方は、「やめたいと思っても、勝手に指がうずいてしまう、麻薬状態なんです」という。
「ショパンに飽きたらミステリー」「無邪気と悪魔は紙一重」などという、しゃれたエッセイをものし、もちろん本業の「ドビュッシー=想念のエクトプラズム」「翼のはえた指」「水の音楽」などの作曲家論や評伝もある。今年は「水のまなざし」という小説まで発表して、文学界とピアノ界を自由に行き来しながら、独自の世界を広げている。そんな青柳がちょっと変わったリサイタルを開く。テーマは「浮遊するワルツ」。
「ワルツのリズムが好きなんです。ぐいっとふんばる1拍目、ふわっと浮きあがる2拍目、くるっと回って着地する3拍目。とくに浮きあがるところがステキ。非日常的というか、ふわっという感覚が好きです」
そう考えると、ワルツは奥深い。人生にも似ているかもしれない。ふんばっているだけの人、浮遊しているだけの人。ワルツも人生も着地がみごとに決まらないといけない。そして、リサイタルの内容がしゃれている。
「シューベルトの《高雅なワルツ》で始まって、次はそのリズムを使ったラヴェルの《高雅で感傷的なワルツ》、サティの《嫌らしい気取り屋の3つの高雅なワルツ》はラヴェルのパロディ。ウィンナ・ワルツに憧れていたラヴェルと、最後はそれに反発していたショパンと、ワルツの鎖で繋がっているんです」
まるで輪舞のように、それぞれがみごとに呼応しあったプログラム。「演奏がうまくいけばですが、びっくり玉手箱みたいに、次々と新鮮なものが飛び出してくるという内容。それぞれ関連がありながら展開していくプログラムです」
サティの曲には、友人の下重暁子さん(大阪は井上章一さん)ナレーションも入る。こんなプログラミングは、想像力が旺盛な人じゃないとできないのでは?
「いえ、じつは謎解きが好きなんです。ミス・マープルみたいに、嗅覚があるというか、直感を働かせて、その原因は何か、追求していくんです」
そうして追求したドビュッシー、ラヴェル、いま興味を持っているのはショパン。
「ショパンはロマン派というより、その前のロココ的なところがある。繊細で華麗な雰囲気。でも和音は印象派といってもいいほど大胆で斬新。だから私が弾くのは、ちょっとキケンなショパンです」
今回、一番聴いて欲しいところは?
「日本ではまだリズムが注目されていない自然さや自由さ、軽やかさのようなもの。聴いていて自然に体が動くような、そういう時を創り出したい。客席でも一緒に浮遊感を味わって欲しいんです。一緒に飛んで最後はふわっと着地したいですね」