サンデーらいぶらりい「いのちの本棚」
(前略)弾くこと、書くこと。どちらにも才能を開花させている人とは、いったいどのような感性の持ち主なのだろう。
青柳いづみこ著『双子座ピアニストは二重人格?』(音楽之友社)に流れる緊張感と柔軟さ。著者はピアニストとして20年あまり活動してきたが、演奏家や文学者の評伝などでも評価を得てきた。
「書くか、弾くかの選択ではなく、どうしても弾いて書く必要がある」「音楽が私のすべてではない」という。
著者の知的財産の背景は、父方の祖父のフランス文学者やケーベル門下に連なる母方の大叔父らがいる。
こうして自らの源流をたどれることが、そもそも普通ではない。文筆家としての「文学のフランス」と、演奏家としての「音楽のフランス」の両方を実践する。また、いずれのジャンルにおいても数多の資料を駆使し、研究にも余念がない。
この本には、作者をめぐる「二重性」を解くためのカギが隠されている。著者の感性の「核」ともいえるドビュッシー論では、その力量が発揮される。さまざまな文化が交錯する19世紀から20世紀にかけて、いかにして作曲家が作品世界を築いたか、音楽を奏でるごとくのタッチで、その世界へと誘う。
ヨーロッパとその音楽に親しんできた著者はこうも語っている。フランス人はワーグナーやブラームスを、ドイツ人は逆にドビュッシーやラヴェルを好む、と。
一種の「ないものねだり」。人間のもつ二重性をここでも見るようではないか。
「音をつづり、言葉を奏でる」著者は、「音楽を書く」ことのできる貴重な存在でもある。