ポーによるオペラ? これは聴かずにはいられません
ピアニストの中でも秀でた文学的才能をもつ青柳いづみこが、エドガー・アラン・ポーの生誕200年にちなんだ魅力的なコンサートを開催する。
「ポーが原作のドビュッシーの未完のオペラ《アッシャー家の崩壊》を中心に、同作に関連するピアノ曲、それからポーに触発されて書かれた作曲家の作品を集めました」
このインタビューの前日、声楽家たちの練習が始まった。
「森朱美さんは《アッシャー家~》のヒロインにぴったりの声をお持ちですし、ロデリック役の鎌田直純さん、医者役の根岸一郎さん、そして友人役の和田ひできさんは、演劇的センスもお持ちの方たちですので、仕上がりが楽しみです」
上演は原語で字幕をつける予定だという。
「日本語訳ということも考えなくはなかったのですが、ドビュッシーのつけた音楽を生かすにはやはり原語で上演するのが一番よいということになりました」
青柳自身のピアノに加え、弦楽四重奏曲、カプレの「赤死病の仮面」では気鋭のグループであるクァルテット・エクセルシオ、ハープの早川りさこが出演する。
「クァルテット・エクセルシオのウェーベルンの素晴らしい演奏を聴き、今回ぜひお願いしたいと思っていました。またハープのソロであるルニエの『幻想的バラード』は技術的に大変難しく、弾ける方が少ないのですが、日本を代表する名手の早川さんが担当してくださることになり、とても嬉しく思います。ルニエやカプレなどが、ドビュッシーの《アッシャー家~》と関連づけられることは普通はないですが、今回の演奏会を通じて、これらの作曲家にも新しい視点をもたらすことができればと思います」
ちなみにポーに触発された音楽は今回取り上げる曲以外にもまだあるという。
「クラシックではラフマニノフの合唱交響曲『鐘』がありますし、ミャスコフスキーの交響詩『沈黙』もあります。でもポーが作曲家たちを虜にしたのは実は1913年まで、以後はポーの影響は希薄になります。ストラヴィンスキーの『春の祭典』の初演が同年なので、音楽の嗜好ががらりと変わったためでしょう。でもポーは今でもルー・リードなどロックやポップスの世界に影響を与えているんですよ」
多忙な音楽活動と同時進行で、新たな著作を目下準備中だという。テーマは鬼才グレン・グールド。ピアニスト、研究者、文筆家の視点で掘り下げた『グールド論』の刊行も待ち遠しいところだ。