【CD評】「ミンストレル」レコード芸術 2013年11月号 評・遠山菜穂子

珠玉かつマニアックな選曲と、滋味溢れる音楽の感興

(先取り! 最新盤レヴュー)

世界初演を含むこだわりの選曲と「本物」の味わい

ドビュッシーの〈ミンストレル〉(前奏曲集第1巻)が表題になった、近代フランスのヴァイオリンとピアノのための作品集。ドビュッシーのスペシャリストとしておなじみの青柳いづみこと、近年彼女とともにデュオ活動をするクリストフ・ジョヴァニネッティによる新録音である。ジョヴァニネッティはイザイ弦楽四重奏団の創設メンバーとしても知られる名手で、青柳とはマルセイユ音楽院時代の学友という。気心の知れた間柄だけあって、互いの息づかいに耳を澄まし、感覚をひとつにして音楽に向かう姿が目に浮かぶような演奏となっている。

CDタイトルから軽妙酒脱な小品集を想像したところ、予想に反してドビュッシー、ピエルネ、フォーレのヴァイオリンソナタを柱とした近代フランスソナタ集の観を呈している。ベルエポックの濃厚な香りが漂うこれらの作品に加えてユニークなのは、表題作および《レントより遅く》のヴァイオリン編曲版、さらにドピュッシー研究家らしいサプライズとして、スケッチ帳から復元された《セレナーデ》の「世界初演」が含まれていることである。

アルトマンが編曲し、ドビュッシーが仕上げた《ミンストレル》も、L ロケ編曲《レントより遅く》も、最初からヴァイオリンのために書かれたと思えるほどに楽器の音色と楽曲の相性がよい。ジョヴァニネッティは老練な役者のように、《ミンストレル》では茶目っ気たっぷりにウィットを効かせ、《レントより避く》では親しげにしみじみと語りかけてくるような調子で音楽を演じる。この豊かな味わいは、今日の演奏ではなかなか得難いものである。

感度抜群の相互反応とそこから生まれる「奥深さ」

ドビュッシー晩年のソナタは、全体の白眉といえる演奏である。ジョヴァニネッティはこの曲の急激な楽想変化や、つねに揺れ動くテンポ感を本能的にとらえながら、生き生きと音楽を展開させている。たとえば第ー楽章では、メイン主題を決然と表現する一方、甘美な陶酔や異国風の情熱などもたっぷりと歌う。ピアノも彼が感じたものを瞬時にキャッチし、時には自らも相手の反応を誘発しながら、呼吸をひとつにして進んでいく。

ピエルネのソナタは、息の長いメロディ曲線やピアノのアルペッジョなどの優美な音の彩が、アールヌーヴォーの装飾を思わせる美しい作品。叙情豊かな演奏で、子守歌のような第2楽章からは、素朴だがゆるぎない歌心が伝わってくる。フォーレのソナタ第1番では、第1楽章でヴァイオリンの表情づけによってテンポが揺れ動くため、ピアノは苦労したのではないかと思われる箇所もあったが、とくにジヨヴェニネッティがさめざめと泣くように旋律を奏でる第2楽章や、二人がのびのびと歌いかわし、情熱的な高まりへと向かう第4楽章が印象的であった。

《セレナーデ》はドビュッシーが1890年代に書いたスケッチをもとに、イギリスの音楽学者で作曲家のR オーレッジが再構成した作品。ドビュッシーらしい調性感のあいまいな主題が幻想味豊かな和声を伴いながらファンタジックに展開され、途中、ヴァイオリンの短いカデンツァも登場する。知られざるドビュッシーの世界を垣間見せてくれる試みである。

ミンストレル
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