重量級の新譜が競い合う今月だが、特色のあるものを紹介しよう。クルレンツィスの《悲愴》には圧倒された。重層的なスコアの読みによりいろいろな音に光が当てられるため、別の曲のように聞こえることもしばしば。それでいて太い線が貫き、泥沼のような沈黙と怒濤(どとう)のような衝迫の去来を経て、痛切なフィナーレへと達する。青柳いづみこ+高橋悠治によるストラヴィンスキー《春の祭典》、《ペトルーシュカ》のピアノ連弾(アールレゾナンス)も奇想天外に面白く、触感のぬくもりが豊か。オーケストラを忘れさせるほどにクリエーティブだ。
礒山雅・選