「文芸3点」より
音楽と文学を論じあわせる試みは多くある。しかし、ピアニスト青柳いづみこの本書がとびぬけてスリリングなのは、だれがだれの影響下にあるといった比較論的考証から解放され、『創作身ぶり』という演奏家ならではの実感をもとに、両者のかかわりを共時的、通時的に読み解くことである。たとえば、文学を愛した音楽家ラヴェルとピアノ奏者でもあった作家のルーセル。ふたりが影響しあったことはないが、著者は作品の相似を『枷』という観点から解きあかしていく。モーツァルトとムージルの共通項は、相対性理論を音楽と文学において実践しようとしたこと。では、ワーグナーが『創作身ぶり』からして正反対のサンボリストたちを熱狂させた理由とは?
著者の澄んだロジックから湧き出るポエジー。文学はロマン主義なり象徴派なり、常に音楽の助けを借りて新たな道を開いてたきことがよくわかる(後略)