生誕150年の今年、ドビユッシーのピアノ曲を素材に、ピアニスト兼エッセイストとして活躍する著者が作品論のみならず作品から自由に発想を広げて多彩なうんちくを傾ける。評者は一読後、ミケランジェリやロジェのCDを聞きながら該当箇所を読み直したが、今まで気軽に聴いていた前奏曲集や組曲の興趣が俄然、いや増してきた。作曲家の意図、音楽的意味合い、演奏上の苦労や楽しみから当時のエピソードなど話は奔放に広がる。ドビュッシーのピアノ曲がみな題名つきなのも、連想を誘い、楽しむに最適なのだ。
「風にはためく帆のイメージの曲」などと解説する評論家もいる前奏曲集第1巻第2曲の「帆」では、「誰だ、帆なんて訳したのは」(女性の「ベール」が正しいと著者)に思わず笑った。ドビュッシーの人間像も浮き彫りにされ40曲どれも楽しめた。印象派の画家たちになぞらえて論じられることに対してもユニークな視点を提供している。(純)