【書評】「ヴィンテージ・ピアニストの魅力」2023年2月8日 中日新聞Web

 演奏家は体力仕事だ。年齢を重ねれば、筋力や瞬発力はどうしても衰える。記憶力だって落ちてくる。十九世紀を生きた超絶技巧のピアニスト、リストが引退したのは三十六歳だったという。「寿命」はスポーツ選手とさほど違わなかった。
 現在、還暦を過ぎたピアニストは珍しくない。本書が取り上げるのは、七十歳を過ぎてなお、第一線で光を放ってきた四十人。六十歳を過ぎて見いだされたフジコ・ヘミング、まもなく百二歳になる現役最高齢のピアニスト室井摩耶子…。それぞれの演奏には「ヴィンテージ」のような深い味わいがある。
 もともとピアニストとしてキャリアを積んだダニエル・バレンボイムは、記者が知ったときにはすでに世界を代表するマエストロだった。近年のリサイタルで聴かせる音の彩色、起承転結のつけ方はまさに「指揮者のピアノ」なのだとか。かたやメナヘム・プレスラーというピアニストは二〇一四年、ベルリン・フィルと共演してデビュー。なんと九十歳だった。
 著者の青柳いづみこさんは、フランスの作曲家ドビュッシーの演奏で名高いピアニストでもある。生演奏には何度も接したが、先月のコンサートで聴いたドビュッシーでは、これまでにない音の勇ましさに強烈な印象が残った。聴けば聴くほど新しさが見つかるのも、きっとヴィンテージ・ピアニストの魅力なんだと思う。アルテスパブリッシング、2200円。(ぐ)

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