【CD評】「花のアルバム」(レコード芸術 2022年2月号)

推薦:那須田務

 青柳いづみこの久しぷりのソロのアルバムは「花のアルパム」と題して、クープランや高橋悠治などの様々な花にち
なんだ音楽を収録している。「妖しくも美しく」という自身による巻頭文が青柳らしい。きれいな花にはトゲや毒がある。「このアルバムは、そんな危うさを孕むむ花にちなんだピアノ曲で編んだものです」。
 クープランの〈ケシ〉はカランとした軽いタッチでチェンパ口風だが、どこか和風。これにスコットの〈ポピー〉
(ケシの英語名)を合わせる趣向も面白いが、和のテイストは続くスコットの〈蓮の国〉にも通じる。その後も様々な花にまつわる曲が、青柳の語る物語のように奏でられる。ちなみにシューマンの〈献呈〉はより華やかでビアニスティックなリスト版ではなく、歌曲に忠実なクララの編曲。演奏の方はナャイコフスキー〈まつゆき草〉等のロマンティックな名曲は標準的だが、タイユフェールやアーンのフランス近代や高橋、伊佐治、八村などの現代作品には特別な味わいがある。シベリウスも楽しい。弾き手の愉悦が伝わってくるような〈ひな菊〉やエレガンス溢れる〈カーネーション〉など。奥付一の〈花によせる三つの前奏曲〉の〈アネモネ〉は半音を多用した怪しげな雰囲気の曲だが、童話の世界のような心地よさ。こうしたことは他の曲にも言えることで、この青柳ワールドに咲く「危うさを孕む花たち」はあまり怖くない。むしろとても優美である。

推薦:草野次郎

 様々な花にちなんだピアノ小品をパロックから現代まで28曲集めたCDを青柳がリリースした。「妖しくも美しく」と副題的に沿えられているのがこのCDの意味付けで、どのような可憐な花にもその奥には何かが隠されているようだ。まずはクープランの〈ケシ〉からスタートする。宮廷的な擾稚さの中に美しくも悲しげな旋律が流れていく。青柳の装飾音のこまやかなクッチが可憐な涙を連想させる。続くスコットの〈ポピー〉や〈蓮の国〉では音色と響きの変幻が魅力的で印象派的な色調の中にいつしか不思議な世界に迷い込んでしまう。タイユフェールの8曲から成る〈フランスの花々)も生き生きと輝く可憐な花々の素朴なモノローグが美しい。チャイコフスキーの〈まつゆき草〉とシューマンの〈献呈〉を経て、奥村の〈花によせる三つの前奏曲〉ではビアノの響きの変化、特にクラスター的な響きを効果的に使い色彩の揺らぎをつくり、音画的でもある。シペリウスの5曲から成る〈花の組曲〉もロマンティックで清々しい透明感を感じさせる。邦人作曲家3人(高橋、伊左沿、八村)の作品は青柳の熱演でそれぞれの作曲スタイルでの個性的な花の表現が強く押し出されている。CDの最後はアウエルバッハによる〈さくらの夢〉で締め括られる。箏曲の旋律を引用した幻想的な夜桜の風景を連思させる必しい佳曲である。人間の花への繊細な惑性と美意識がこれほど多くの「妖しくも美しい曲」を生んだわけである。 

*CDランダム5枚*

新メルド日記
CD紹介TOP

CD関連記事 ランダム5件

Pick Up!

CDのご注文

サイン入りCDをご希望の方

ご希望の方には、青柳いづみこサイン入りのCDをお送り致します。
ご注文フォームに必要事項をご記入の上お申し込みください。
お支払い方法:郵便振替

Top