【インタビュー】「島崎藤村が聴いたドビュッシー〈1914年・パリ〉」ぶらあぼ 2014年9月号 インタビュー(取材・文:宮本明)

島崎藤村も聴いたドビュッシーの世界

ピアニストと文筆家。見事な二刀流で活躍する青柳いつみこが、ドビュッシー没後100年の2018年に向け、今秋から5年越しのカウントダウン・コンサート・シリーズを始める。毎回、ちょうど100年前のその年に焦点を当てていく企画で、初回は、1914年にドビュッシーが演奏、作曲した作品を紹介する2夜。

演奏家としてのドビュッシーを、普段私たちはあまり意識していないかもしれない。

「彼の活動記録を眺めていると、この頃に自作自演が多いのに気づきます。指揮者としてピアニストとして、こんなに演奏していたんだ!というぐらい。裕福な暮らしに慣れたエンマと2度目の結婚をしたために多額の生活費が必要だった事情もあったのでしょう」

第1夜(10/21)に演奏する「おもちゃ箱」は、1914年に上演予定だったバレエ曲だがオーケストレーションは未完に終わり、ピアノ版だけが出版された。今回は青柳自身が訳した原作台本を波多野睦美が朗読する。

「高橋悠治さんのコンサートで波多野さんのナレーションを聴いて惚れ込みました。言葉の背景にあるものが全部浮かんでくるような臨場感があります。お願いしたら、彼女もちょうど『おもちゃ箱』をやりたいと思っていた、と二つ返事で引き受けてくださいました。初演当時の装置は原作の挿絵画家アンドレ・エレによるものですが、今回は新たに作成した、とても可愛いアニメーションを映しながら演奏します」

第2夜(10/31)の前半は1914年3月の演奏会の再現。ドビュッシーが「子供の領分」を弾き、ニノン・ヴァランと「マラルメの3つの詩」を初演したこのコンサートを、文豪・島崎藤村が聴いていたのである。

「姪との不倫が明るみに出た藤村は、逃げるようにパリに遊学していました。この演奏会の印象を書き残していますが、その非常に的確な捉え方も、それを文章化する能力もさすがで、感心します。『マラルメの三つの詩』は声域が広くて尻込みされるのですが、新人の盛田麻央さんが歌ってくださるので楽しみです」

後半では、当時パリ在住のアメリ力人ヴァイオリニスト、アーサー・ハルトマンとのコラボに焦点を当て、ヴァイオリンとピアノ用に編曲された「亜麻色の髪の乙女」「ミンストレル」や、グリーグ「ソナタ第2番」などを小林美恵と演奏する。

1914年からの晩年の5年間は、ドビュッシーにとってどんな時期だったのだろう。

「13年、バレエ音楽『遊戯』で20世紀音楽に向けて一歩を踏み出したのに、14年夏の第一次世界大戦勃発にものすごいショックを受けて中断してしまった。戦争さえなければドビュッシーは、人間のメカニズムから離れない有機的な方向で、聴衆を置き去りにすることなく現代の道を探っていたはずです。20世紀音楽の地図が変わっていたかもしれないと考えると、個人的には悔しいですね」

取材・文:宮本明

島崎藤村が聴いたドビュッシー《1914年・パリ》
<第1夜>10/21(火)19:00
1914年の作曲・演奏活動から
<第2夜>10/31(金)19:00
第1部:島崎藤村が聴いたコンサートから
第2部:アーサー・ハルトマンとのジョイントコンサートから

Hakuju Hall

問 東京コンサーツ 03−3226−9755 
http://www.tokyo-concerts.co.jp

島崎藤村が聴いたドビュッシー
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