【関連記事】「ピアニストが見たピアニスト」出版記念リサイタル ぶらあぼ 2005年9月号 取材・文 城間 勉

ドビュッシーはラモーに何を聴いたのか?

ピアニストと文筆業の両分野での精力的な仕事ぶりは皆さんご存知だろう。ライフワークであるドビュッシーの研究とリンクしたかたちでコンサート活動を展開してきた。デビュー25周年にあたる今年は、フランスのロココ時代の大家ジャン=フィリップ・ラモーの作品を入れたCD『やさしい訴え ラモー作品集』と、すでに多くのピアノファンの間で評判になっている新刊『ピアニストが見たピアニスト』(白水社)の出版を記念してのリサイタルを開く。

毎回テーマを持って行われる彼女のステージだが、今回は”ドビュッシーのラモー受容”と言えばよいだろうか。「1889年のパリ万博で、ドビュッシーはガムラン音楽に触れて大きな影響を受けたことはよく知られていますが、この時に当時まったく使われていなかったクラヴサン(チェンバロ)の演奏も体験したらしい。そこでラモーの音楽に開眼するわけてす」このフランス・バロックへの深い関心は、”脱ワーグナー”を目指した彼の姿勢の表れでもあった。さらにドビュッシーはラモーの傑作『イッポリートとアリシー』も観ており、そうしたオペラ体験も”ラモー熱”をいっそう煽ることになった。「それは単に国民的感情に留まらない個人的な美学上の帰結」だった。

「クラヴサン音楽の装飾音や二段鍵盤技法などは、ドビュッシーのピアノ作品のいたるところに痕跡を残しているんです。と同時に、軽やかなクラヴサン奏法を取り入れたことは重要ですね。つまり彼はラモーの精神と技法両面でクラヴサン音楽の特徴を受け継ぎ、ピアノ音楽の中で独自の音楽として昇華させたのです。具体的には『前奏曲集第2巻』の「霧」「花火」での白鍵と黒鍵の交替、トッカータ風の「交替する3度」などお聴きになっていただければお分かりになるかと思います。前半がラモー作品、後半がドビュッシーの『前奏曲集第2巻』という構成。青柳によるトークも楽しみのひとつ。そんな彼女にとってフランス・バロック音楽の魅力とは?

「作曲家の感情を大っぴらにさらけ出す19世紀のロマン主義の音楽と違って、ラモーやクープランの音楽では、感情をほのめかすところで留まっている点に惹かれますね。デリケートで品の良さが大切にされているのです。モダン・ピアノでそうした特徴を表現するのは大変に難しいのですが、フランスにはピアノでクラヴサン曲を弾く伝統があり、安川加寿子先生を通じて日本でも受け継がれています。ピアノで弾くラモーの世界を、ぜひ多くの人に味わって欲しいですね」今後も単行本6冊(!!)の出版が決まっているという。「原稿の執筆とピアノの練習で追いまくられる生活はしばらく続きそうですね(笑)」

『ピアニストが見たピアニスト』出版記念リサイタル
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