【CD評・特選盤】『海』(レコード芸術 2021年3月号 評・濱田滋郎、那須田務)

濱田滋郎 推薦

ドビュッシーの世界を誰よりもよく知り、彼に関する研究を綴ることや、その作品を演奏することを不断のライフワークとしている青柳いづみこが、このアルバムでは、2人の有能な後輩ピアニストの協力を得て、たいへん珍しく価値ある譜面を音にして聴かせてくれる。その2人とは、アルカン作品の演奏シリーズで知られる意欲的ピアニストの森下唯と、指揮者でもあり、ユニークな活動をつづけてきた田部井剛(ギタリスト、田部井辰雄の子息である。彼とは縁あって以前から知己だが、こんなにピアノが弾けるとは知らなかった)。選ばれた譜面とは、まずドビュッシーの交響詩《海》を、彼の親しい友人かつ協力者であったアンドレ・カプレが、ピアノ6手ー2台のピアノで、その片方が連弾ー用にアレンジしたもの。《海》には作曲者自身による4手連弾盤やカプレ編の同じ形のものも残されているが、この6手版は当然ながらより豊かで原曲(オーケストラ)に近いにも関わらず、滅多なことでは聴けない。青柳いづみこは、フランス国立図書館に所蔵されるカプレの自筆譜のコピーにより、2019年1月にこれの日本初演を行い、また2020年2月にこれを初録音した。分析するのも容易でない《海》を、このような形で聴くことはたいへん刺激にもなり、有難いことだ。併録がファリャの名作《スペインの庭の夜》の、G.サマズイユによる6手用アレンジであるのも、素敵に嬉しいことだ(ことに私という人間にとっては!!)

那須田務 推薦

青柳いづみこがドビュッシーの《海》と《スペインの庭の夜》のピアノ版を録音した。注目は《海》の6手2台ピアノ版。青柳氏の解説によれば、ドビュッシー自身による管弦楽版の再演の2か月後にカプレによって編曲されたものの、コピー譜がフランス国立図書館のデュランの資料庫に眠ったままになっていた。それを青柳氏自ら複写したのが2018年8月初頭。間違ってオリジナルが手渡されたという連絡が入って急ぎ交換したという。一方のファリャはピアノのパートをそのままにオーケストラ・パートをサマズイユが連弾用に編曲したものを弾いている。共演は若手の森下唯と指揮者でもある田部井剛。注目は《海》。すでに刊行されているカプレによる4手2台版の方がコンパクトに纏められている感じがする。ちなみにエッセール&ブルーデルマッハー盤と聴き比べてみると、6手2台版の方が格段に響きに量感がある。第1曲の導入部。ロ音の上の虚ろな5度の響き、さざ波のような音型、エオリア旋法によるエキゾティックな主題、主部の5音音階による第2主題などが海のざわめきを思わせる立体的な響きの中から印象深く浮かび上がる。それは他の2曲にも言える。ライナー・ノーツで池原舞氏が同版は「オーケストラ版以上に複雑かつ繊細なテクスチュアを厳密に再現している」とお書きになっておられるが同感だ。資料的な価値大。ファリャはスペイン風の濃厚なエキゾティシズムと同時に弾き手の愉悦が伝わってきて、これまた楽しい。

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