コラム「活字の海で」
(前略)ピアニストの青柳いづみこは「演奏家が演奏家を批評する」という”禁じ手”で新境地を開いた。演奏、文筆とも二十五周年に当たる今年はその名もずばり、『ピアニストが見たピアニスト』(白水社)で評価を問う。
海外メディアの容赦ないインタビュー記事をはじめとする膨大な資料も駆使し、少女時代の厳格な恩師に受けた心の傷を克服できないアルゲリッチ、完ぺきを期すあまり「歌」を封印してしまったミケランジェリら名ピアニストの内面に迫る。同業者ならではの奏法分析にも抜かりはない。
「ピアニストがピアニストを書く」のは抵抗があり、一時は執筆を断念したという。だが、「資料を読み漁るうち彼らの”叫び”が聞こえてきた。水準は違うにしても、同じピアニストとして心理の重なる部分は多く、絶対に語らなければならないと思い直した」。(後略