【関連記事】2022安川加壽子生誕100年 第15回安川加壽子記念会演奏会(2022年4月7日付 東京新聞夕刊)

生誕100年記念 門下生ら15日演奏会

 先駆的な演奏や教育で、日本のクラシック音楽界に大きな足跡を残したピアニスト安川加壽子(かずこ、1922〜96年)。その門下生が中心となり、生誕100年を記念する演奏会が15日、東京・上野の東京文化会館で行われる。子どもたちによる発表会プログラムの再現や、生前、書き残した文章やインタビューをまとめた書籍の販売もある。フランスで培った自然体の奏法や、教則本の翻訳といった安川の功績があらためて評価される機会になりそうだ。(清水祐樹)

 安川は兵庫県に生まれ、外交官だった父の仕事の関係で一歳で渡仏した。パリ国立高等音楽院に入学して名ピアニストのラザール・レヴィに師事し、一九三九年の第二次世界大戦勃発を受けて十七歳で帰国。四一〜八三年の間、ほぼ毎年リサイタルを開いた。
 帰国当初の日本のピアノ界はまだ黎明(れいめい)期。演奏も音の美しさより、迫力を感じさせる「熱演」が好まれる傾向にあった。
 そんな時代にクラシックの本場・欧州の文化で育った安川の登場は大きな衝撃を持って迎えられた。「指に翼がはえているようだ」とも評された軽快なタッチ。自然な姿勢、力を抜いた腕から紡がれる色彩豊かな音色が聴衆を魅了。力んで弾くそれまでの日本の奏法に革命をもたらした。
 一方で、その軽やかさが「あっさりしすぎている」との批評もあり、門下生がコンクールで苦戦したことも。教え子の一人で、評伝『翼のはえた指』(白水社)も著したピアニスト・文筆家の青柳いづみこは「日本ではとにかく、『速く』『大きな音』で弾くことが評価されがちだった。それでも、先生は長い目で見て、無理なく美しい響きを出すことを実践し、教えてくれた」と振り返る。
 三十歳で東京芸術大の教授を務めるなど後進の育成にも尽力。中でも、フランスの子ども向け教則本「メトード・ローズ」の翻訳は、今も使われているロングセラーで、初期教育本の草分けとなった。
 当時はあまり知られていなかったドビュッシーやラヴェル、フォーレらフランス人作曲家の作品を日本に紹介した貢献も大きい。
 十五日の記念演奏会は、安川が日本初演した作品を中心にした曲目。岡本愛子がラヴェルの「高雅で感傷的なワルツ」、平尾はるなが父・貴四男の「ピアノ・ソナタ第一楽章」を弾くほか、井上二葉、多(おおの)美智子、青柳らも出演する。
 演奏会の前に、安川が子どもたちを指導していた五〇〜六〇年代の発表会プログラムの再現も。門下生が指導する小三〜中三の孫弟子たちが、レヴィやシャブリエ、ピエルネらの作品を演奏し、当時の雰囲気を伝える。
 ロビーでは、写真や演奏音源、戦前からのコンサートプログラム、雑誌や新聞の関連記事など貴重な資料の展示もある。
 また、青柳が、安川の寄稿やインタビューを集めて編集した『蘇(よみがえ)る、安川加壽子の「ことば」』(音楽之友社)の先行販売も。フランスで育ち、日本語が得意でなく寡黙だったという安川が、自身の思い出や私生活、音楽家への思い、音楽教育の考えなどを語った貴重な証言、音楽評論家吉田秀和や作曲家三善晃、詩人谷川俊太郎ら著名文化人との対談が収められている。
 国際コンクールで何度も審査員を務めた安川は、日本人の音楽的な表現力が欧州に近づくには「あと五十年はかかる」と嘆いた。最近、日本人ピアニストの上位入賞が相次いだことについて、青柳は「先生は、澄み切った弱い音の響きを大切にしていた。ようやく、その教えが広まり、実践できるピアニストが出てきた」と感慨深くとらえている。

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