【コンサート評】「安川加壽子記念会 第12回演奏会」音楽の友2016年12月号 取材・文=上田弘子

外交官の父の赴任に伴い1歳で渡仏してから17歳まで、フランスをはじめヨーロッパで過ごし学んだピアニストの安川加壽子(1922~96)。帰国後は演奏家、教育者として日本の楽壇を牽引し、国際感覚に秀でた大和撫子は海外からも尊敬されていた。門下からは書ききれないほどの音楽家や教育者が輩出され、今年の「安川加壽子記念会・第12回演奏会」では「安川加壽子先生歿後20年に寄せて」と題され、感慨深い一夜となった(10月28日・東京文化会館〈小〉)。

前半は、今年6月に行われた「第8回安川加壽子記念コンクール」の入賞者たち。小林遼(第3位)、吉見友貴(第2位)、上原琢矢(第1位)がコンクールからの成長を聴かせ、各々の個性の開花は頼もしかった。後半は安川門下の演奏。ドビュッシーのオーソリテイである青柳いづみこならではのピアノと、ソプラノの盛岡麻央(賛助出演)によるドビュッシー《歌曲集・忘れられた小唄》《もう家がない子たちのクリスマス》で、会場をエスプリの空間に。最後は三舩優子。「安川先生のレッスンも受けた、内外のコンクールで弾いた曲」というシューマン《交響的練習曲》を堂々と。

会場ロビーには数々の写真がパネルで並べられ、レコード、演奏会プログラム、掲載誌、国内外で受賞した勲章等々が展示されていた。一つひとつ見ながら改めて安川の偉業を実感していたところ、その中に若輩者の筆者撮影の写真を見つけ(故高円宮殿下とのツーショット等)、思わず直立不動で最敬礼の思い。瞬く聞に溢れ出た涙と共に、生前の、忘れ難い安川の笑顔と毅然とした気品の立ち居振る舞いが甦る。「安川先生は、音楽も生き方も、ものさしのように真っすぐでした」という青柳。音楽後進国の日本を国際レヴェルにまで引き上げた園田と安川。天上で、今の日本をどう見ているだろう。

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