【書評】「水のまなざし」東京新聞 2010年11月7日号 評・中条省平(フランス文学者)

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(前略)日本を代表するドビュッシー弾きでもある青柳いづみこの初長編『水のまなざし』(文藝春秋)は、陰翳豊かに、クラシックのピアニスト志望の少女が困難を乗り越え自己回復を果たす物語を紡ぎ出す。

将来を嘱望されていた少女は、楽譜から聞こえてくる「歌」を弾こうとして、いつも失敗する。ついには自分の声まで出なくなってしまう。彼女はピアニストの修行を中断して故郷に帰り「歌」の正体を発見する。

現役ピアニストならではの音楽の蘊蓄もたっぷり披露され興味深く、ミステリー仕立ての趣向も巧み。だが真の読みどころは、四季の自然や食の多彩を言葉にする確かな腕前だ。

そこに小説の喜びがあふれている。

水のまなざし
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