【書評】「我が偏愛のピアニスト」ムジカノーヴァ 2011年1月号 評・山本美芽

日本のピアニスト10人へのインタビュー集。ムジカノーヴァ誌上での連載に大幅加筆されている。ピアニストにして文筆家、著者の活躍は本誌読者ならよくご存じだろう。リサイタルでのプログラムの組み方や、ホールの響き、レパートリーや指先談義、商業主義との折り合いのつけ方など、同じ現場を知るもの同士ならでは、踏み込んだ話で盛り上がる。

たとえば、素晴らしい演奏をしたあとに浮かない顔をしているピアニストは、いったい何を気にかけているのか。演奏に没入しすぎてしまったこと、または霊感が降りてくるような究極の演奏ができてしまった経験があると、その境地にはいけなかったことを残念に思う。高次元すぎてリアリティが薄くなりそうな話なのに、「それは確かに悩むだろうな」と共感でき、すぐ隣で会話を聞いているかのような身近さを感じさせる。

しかし、ピアニストの内面に迫っただけでは、著者は満足しない。いったん大きく距離をとって、CDに録音された演奏を丹念に聴きこみ、実際にリサイタルの客席でも思いをめぐらせる。評論的な要素を含め、音楽家としての全体像にも迫っていく。

シンプルながら含蓄のある言葉の数々も、心に残る。「鞭の要領で体をしならせ、たわめ、瞬間的にものすごい力をかける」「スパルタ教育というのは全部が全部、悪いことではなかった」「ピアノを弾いていない、音楽を弾いている」などなど。世界の中の「日本のピアノ界」、その豊かさが、ここに凝縮されている。

我が偏愛のピアニスト(単行本)
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