【関連記事】「ドビュッシーとの散歩」婦人公論 2012年12月号 インタビュー 構成・鈴木裕子

マイナス感情も音楽に取り入れた人間らしい作曲家に惹かれて

フランスの音楽家、クロード・ドビュッシーに興味を持ったのは1975年、大学院の修士論文のテーマに彼を取り上げたのがきっかけです。私の祖父(青柳瑞穂)がフランス文学者だったので、マラルメやヴェルレーヌ、アンドレ・ジッドといった詩人や作家の名前には、祖父の本棚で幼い頃から慣れ親しんでいました。思春期を迎える頃には、彼らが生きていた19世紀末のパリの、同性愛あり、グロテスクの美ありといった、ちょっと頽廃的な雰囲気にも惹かれていって。ただ、彼らとドビュッシーとの間に交流があったとは知らずにピアノの稽古を続けていました。

論文を書くためにいろいろ調べるうち、マラルメをとりまく若い詩人の中にドビュッシーがいたということを知って、びっくり。私はそれまで「お上品なおふらんす音楽は自分には合わない」とドビュッシーにも関心がなかったのに、一気に距離が縮まったのです。

フランス留学後、ピアニストとしてデビューし、演奏活動を続けていましたが、やはりドビュッシーの研究がしたくなって、大学院の博士課程に入学し直しました。それ以来、演奏でも文筆でも彼を追い続けています。

本書は『音遊人(みゅーじん)』という音楽情報誌に6年半にわたって連載した文章がもとになっています。単行本にまとめるにあたり、新たに7篇を書き下ろし、ドビュッシーのピアノ作品計40曲に寄せたエッセイ集として世に送り出すことができました。2012年はドビュッシーの生誕150年ということで、コンサートもよく開かれました。

ドビュッシーという人は、知れば知るほど奥深く、興味が尽きません。フランス上流社会の文化に憧れる一方、大衆芸能やオカルトといった下世話な方面にも関心を持っていました。彼はよく、「優雅で繊細な作曲家」と称されますが、時に大胆だったり、いい加減だったり、かなりの皮肉屋だったり……というように、非常に複雑で、なかなか人間くさい人物だったんですね。

ですから、彼の音楽もお上品なものばかりじゃない。ドビュッシーは「哀しいあきらめをもって」とか「人をバカにしたように」といった、人間の心に潜むマイナスの感情をも音楽で表現しようとし、楽譜に書き込みました。そこには、彼が実生活で味わった苦い思いがそのまま反映されている。「真・善・美」を信条とし、人間のポジティブな感情に重きを置くクラシック界にあって、ドビュッシー音楽は今も革新的です。

革新的といえば、西洋の音楽に東洋の旋律を真っ先に取り入れたのはドビュッシーです。19世紀末のパリではジャポニスムが流行していて、彼も「さくらさくら」や「あんたがたどこさ」といった日本のわらべ歌に見られる東洋風な音階を使って曲を作っています。実際、ドビュッシーの音楽と邦楽とをならべて聴いてみると、まったく違和感なく耳に流れ込んできて、驚きますよ。

ドビュッシーのイメージ、変わりましたか? 固定観念を手放すと彼の音楽がこれまでとは違って聴こえ、目に浮かぶ風景も変わってくるはずです。どうぞ、思い込みから離れて、本のタイトルにもあるようにぶらりと散歩に出かけるような気軽さで、ドビュッシーの音楽、ひいてはクラシック音楽とつきあってみてください。きっと新しい発見の連続でドキドキ、楽しんでいただけると思います。

ドビュッシーの作品を私たち日本人が弾くと、どこかなつかしい感じがする―生誕150年。ドビュッシーのピアノ作品40曲に寄せて、モノ書きピアニストが綴る演奏の喜び。(帯書きより)

2006年から2012年まで雑誌『音遊人』にて連載されていたドビュッシー作品にまつわる文章に、 新たに7本を書き下ろし。

ドビュッシーとの散歩
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