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青柳いづみこのメルド日記


2004年年7月4日/松田聖子体験

  7月3日、大阪城ホールでの松田聖子のコンサートに行った。
  このごろ、ピアニスト論を執筆しているためにネット上でいろいろ検索する。E−プ ラスでポリーニのリサイタルのチケットを注文したら、情報が届くようになった。クラ シック、ポップス、イベント、古典芸能、スポーツなんでもとりまぜて。
  たまたま、松田聖子のコンサート・スケジュールが目にはいった。ちょうど私が仕事 で大阪に行く日に当たっている。席もまだ残っているらしい。6時半始まりだから、終わったあとでもまだ新幹線の最終(のぞみ9時18分)に間に合うだろう。シメシメ、 と注文したというわけ。

  私は、クラシックはあまり聴かないが歌謡曲や演歌は好きで、その昔、「ザ・ベストテン」や「スター誕生」は書かさず見ていた。今でもテレビのワイドショーは朝から午後まで各局チャンネルをまわしまくるし、女性誌も毎週ほぼ全誌を買う。美容院に行くと、読むものがなくて困るから、書評のための本を読む。美容師さんは、パーマをかけている間中固い本を読んでいる私をおそれおののいて見ているが、実は週刊誌はどれも読んでしまっているのだ。
  松田聖子は、デビューが私と同じ1980年。独特のリズム感とノリ、はりのある歌声、声の表情の微妙な変化、音程が正確なところ(とくに音階や下降する5度音程)が気に入っていた。くるくる変わる髪形やお化粧、ファッションも面白いなと思った。といっても、テレビで見るだけで、シングルやアルバムは持っていないし、グッズを買うわけでもファン・クラブにはいるわけでもないが。
  松田聖子に限らず、クラシック以外のコンサートは行ったことがないから、当然ながら勝手がわからない。その日は勤め先の大阪音大で大学院の特別講義を行ったあと、特別研究コースのレッスンをしたが、学生たちがしきりに心配している。先生、始まったらすぐに立って椅子の上でぴょんぴょん飛ぶんですよ、2時間とか3時間とか。もちます? だいたい、聖子ちゃんのファンは、みんなフリフリの洋服とか着てくるんじゃないですか? 
  大阪城ホールは、音大から電車で30分ぐらいのところにあるが、学生たちは、ものすごい人数が集まるから早く行った方がいい、チケットを持っていても長蛇の列になる、とアドバイスしてくれる。
  そんなわけで、6時半の開演に合わせて5時すぎにはレッスンをきりあげ、梅田からタクシーで会場に向かった。

  着いたのは開演20分前。ホール前の広場には沢山の人がたむろしていたが、入り口が多く、誘導もスムーズでさほど待たずに入場できる。間に合うかなぁと心配しながらトイレにはいったが、トイレの数もものすごく多いから、並んでいてもあっという間に順番が来る。人の集まる場所はそれなりの対策をしてるんだなーと妙な感心の仕方をした。
  チケットはスタンド席で割と前の方。しかし、その前にずらっとアリーナ席が並んでいる。楕円形のアリーナの長い方の端にステージがあるので、はるか彼方。真ん中にステージを設ければみんなから満遍なく見えるのに。
  と思って、あとでホールのHPを見たら、中央にステージを設けるCタイプはスポーツなどに使われ、収容人員一万六千人。端にステージがある今回のタイプはコンサートが多く、一万一千人。つまり、一万六千人は集まらないとふんだのだろう。

  椅子の上には印刷物が置かれていたが、聖子のファンクラブの勧誘とか、グッズの紹介とか、コマーシャルをつとめる会社の宣伝とかばかりで、プログラムがない。従って、数あるヒット曲の中でどの曲が歌われるのか、どんな構成なのかもわからない。松田聖子の楽曲のすべてを知っていて、イントロが流れたとたんすぐにそれと察知するファンならいいだろうけれど。
  6時半開演のはずが、いつまでたっても始まらない。座席には、ひっきりなしに観客がはいってくる。たぶん、開演時刻になって人が押し寄せて、入り口が詰まってしまったのだろう。早く行け、と忠告してくれた学生さんに感謝。 観客の様子を観察する。圧倒的に女性が多い。30〜40台ぐらい。小学生ぐらいの子供連れのお母さんもいる。総じてファッションは地味で、フリフリの聖子ファッションの人は、少なくともスタンド席にはほとんど見かけない。コアなファンはアリーナの方に陣取っているのかもしれない。

  15分ほどすぎたころ、間もなく開演しますとアナウンスがある。アリーナ席の応援団みたいな兄ちゃんが、「セイコ! セイコ!」と叫び、みんなそれに合わせてバックビートで手拍子。それでもなかなか始まらないので、義理で手拍子を始めた人は一人抜け、二人抜け。
  事前に問い合わせたところ、コンサートは2時間という話だった。6時半開演だから終演は8時半。ホールの最寄りの駅から新大阪まで、乗り継ぎを入れても30分ほど。切符を買う時間を入れても十分間に合うとふんだのは甘かった。最終ののぞみに乗り遅れたら大変。コンサート途中でも8時半になったら出ることにした。
  会場の照明が消え、レーザー光線がアリーナ中を駆けめぐる。パチパチとまぶしい。大音響とともにステージが明るくなり、最新アルバム『Sunshine』を意識したオレンジ色の太陽のセットの中から、聖子が歌いながら姿をあらわした。衣装は黄色と白のミニドレスに同じ配色のブーツ。聖子のO脚は、このカットが一番目だたない。

  わーっと拍手が沸き起こったが、心配していたスタンディングは、少なくともボックス席ではなかった。列の端に座っていた2人組が立ち上がり、「聖子チャーン!」と声をかける程度。歌に合わせてバック・ビートで拍手しているが、それすらしていない人もいる。メドレーで歌われるのは聞き慣れない歌ばかりだ。あとで『週刊朝日』の記事を見たら、最新アルバムの収録曲らしい。
  それにしても、うるさい。マイクのボリュームをギンギンに上げているので、聖子特有のよくのびる「i〜」の音が金属的なハレーションを起こして、脳髄にキリキリと食い込んでくる。ことにAやHのあたりがひどい。バックのギターやドラムの音もものすごくうるさい。レーザー光線は絶え間なく駆けめぐり、ときどき火花も散る。眩しい、うるさい。パチンコ屋の中にいるようだ。

  聖子の声は、ちょっと疲れているようだった。大阪がツアーの最後で、この日は最終日の前の日。かすれたり、のびが悪いところがあったり、音程が狂ったり。最初の方は、一曲歌うごとに何か飲んでいた。
  五曲歌ったところで、聖子はお召しかえ。セットは濃いブルーになり、あちこちに光の点々。『蛍の草原』に合わせた照明らしい。こんどはふわふわした白いロングドレスを来た聖子が、やはり歌いながら階段を降りてくる。
  一曲を歌ったところで、トーク。シングル『逢いたい』の宣伝。その曲を使っているライオンズマンションのコマーシャルを再現してみせて、笑いを誘う。彼女は昔から、自分のパロディがうまかった。意外なことに、声は低いし、しゃべりも切れがよく、さっぱりしていて、どこかアナウンサー口調。甘えた鼻声は歌うときだけなのか。

  『逢いたい』を聴いたとき、何かに似てるなーと思っていたら、次にそのそっくりな曲(タイトルまで)が歌われた。『あなたに逢いたくて』。うーん。ついで、『SWEET MEMORIES』や『赤いスイートピー』などのバラードが、本人的には「しっとり」と歌われるのだが、相変わらず「i〜」の音をAやHでのばすと、脳髄の中にキリキリさしこみがくる。何とかならないものだろうか。坐った席が悪かったのか。あるいは、このテのコンサートはこんなものなのか。ここは聖子を「見に」くる場で、歌を聴きたいと思ったらCDを買えばいいのか。
  でも、見ると言っても、限りなく遠いのである。オペラグラスを持って行ったのだが、それを使って、ようやく肉眼でサントリーホールの最高列が見ている舞台ぐらいの大きさにしかならない。よく見かける大画面の設備もなく、ひたすら遠かった。ひたすら遠いご本人と、肉体にくいこみ、神経組織をも引き裂いてしまうような「声」の近さとの異様なギャップ。これが、私の聖子体験だった。

  三度目のお召しかえは、オレンジ色のラメのパンタロンの上下。石橋貴明とのシングル『Smile 
on me』を原田真二とのデュオで歌う。このコンサートをプロデュースし、アルバムの作曲も担当し、ギターも弾く原田が紹介される。はっきり言って原田さん、人気ないですね。拍手も、聖子に向けられるものとは大違い。トークもあんまりうまくない。曲づくりについてひと言・・・とマイクを向けられても、ひたすら「すッごくいいアルバムに仕上がったスよ、是非ッ聴いて下さい!」をくり返すばかり。

  ここでちょっとしたハプニング。『Smile on me』は、昔の「制服」という曲のその後、つまり、卒業式のときに制服のボタンをもらった先輩との後日談を歌ったもの、と紹介されると、客席から「その『制服』を歌って!」という声が上がったのだ。原田真二は、早速ギターをまさぐりながら、何とかイントロを思い出して弾き始める。ところが、ファンからのリクエストにも気軽に応じるといわれる聖子が、どうやら「制服」を歌えないらしい。うろたえた聖子は、「今度勉強してきます・・・原田さん、もういいです」でおしまいにしてしまった。あんまりヒット曲が多すぎて、全部おぼえてないのかもしれない。

  もうひとつのハプニング。ムーン・ウォーク風のダンスを踊ったあと、トークしようとしてマイクを取る聖子だが、息が上がってしゃべりが続かない。ギンギンにボリュームを上げたマイクは、激しい息づかいを全部キャッチしてしまう。息がぶつかって、マイクを殴ったような音が会場に鳴り響く。つまり、何でもすごくオーバーに伝わってしまうのだ。心配したファンが次々に「大丈夫?」と声をかける。「大丈夫!」と答えるのも苦しそう。若づくりだけど、やっぱり四十台なんですね。

  最新アルバムのダイジェスト版をメドレーで歌ったあと、ドラムやキーボード、ダンスなど他のメンバーが紹介され、聖子は四度目のお召しかえ。今度はスカートが円くひろがった赤と白のミニドレスに、白いソックス、黒のストラップ靴。学生靴のようだが、かかとはとんでもなく高い。いわゆる「ブリッコ」衣装だが、ブーツをはかず、ソックスで足首を区切られるとO脚が目立つ。
  このあたりですでに8時20分で、私のカウントダウンが近づく。トークはコマーシャルが多い。年末のディナーショーの宣伝。「この大阪が夏のツアーの最終です。夏が終わるとすぐに冬が来るわけでして・・・」には大笑い。聖子グッズも宣伝される。「早く起きてー」と聖子の声で起こされるめざまし時計。止めると、「今日も一日がんばってねー」という声に切り替わるとか。

  ファンからいろいろ声がかかったり、Tシャツのプレゼントがあったりするのだが、ファンにはマイクがないから、遠くにいると何が起きているのかわからない。唯一マイクを持っている聖子がまた、その実況解説をしない。聖子の場合、コンサートがそのままファンの集いなんだろうか、とちょっと思った。
  いや、聖子がそう思っている、というか、制作サイドがそのように想定しているのは確かだ。最新アルバムにしても、みんなもうゲットして覚えてしまっているだろうから、一緒に歌ってねー、てなことを言う。しかし、実際には合唱は起きない。少なくともまわりでは、誰も歌ってない。カラオケで歌詞カードを見れば歌えるのだろうが。『赤いスイートピー』にしても、聖子が途中まで歌い、あとを観客につづけさせるが、それほど大きな合唱にはならない。

  オペラのプログラムで歌詞対訳表をつけ、それだけでは足りなくて電光掲示板に字幕を流し、楽曲についてあれこれ解説するクラシックの努力は、一切必要ないと思っているらしい。必要がないのは羨ましい。でも、本当にそうなのかな?
  ファンとのやりとりの間に制限時間がいっぱいになったので、ホールをあとにした。というわけで、アンコールに着たというヘソ出しホットパンツ姿は見ていない。途中で席を立つ人など誰もいないが、案内嬢に「新幹線の時刻が・・・」と言ったら「お気をつけてお帰り下さいませ」と笑顔で言われた。

  『週刊朝日』によれば、このあと『渚のバルコニー』(「なァーぎィーさァーの、ッオバルーゥコォニーイーで、ッア待っててーぇ」という微妙な揺れが好き)や『天使のウィンク』『夏の扉』など、怒濤のヒット曲メドレーになり、観客は総立ちで大合唱した(といっても、6月21日の東京武道館の模様だが)という。大阪城ホールでも、私がいなくなった8時半以降に「巨大懐メロカラオケ大会」状態になったのかもしれない

  一夜明けても、目はチカチカ、耳はじーん。パソコンの画面を見るのも辛いほど。もうちょっと楽曲中心の音響やステージ構成で聖子の歌をじっくり聴くコンサートのかたちがあってもいいんじゃないかなー。といっても、ディナーショーのチケットは買わない私でした。


MELDE日記・目次
2004年6月1日/「メロン三姉妹」と美智子さま
2004年4月16日/アンリ・バルダ追っかけ記
2004年3月10日/小さな大聴衆
2004年1月20日/大変なんです!!
2003年12月12日/テレビに出てみました
2003年9月13日・14日・15日・16日・17日/方向音痴のシチリア旅行 その II
2003年9月10日・11日・12日/方向音痴のシチリア旅行 その I
2003年9月8日/アンリ・バルダの講習会
2003年8月17日/東京湾大花火大会
2003年7月28日/世界水泳2003バルセロナ
2003年7月11日/新阿佐ヶ谷会・奥多摩編
2003年5月31日/アルゲリッチ−沖縄−ラローチャ[III]
2003年5月28日/アルゲリッチ−沖縄−ラローチャ[II]
2003年5月22日/アルゲリッチ−沖縄−ラローチャ[I]
2003年5月3日/無駄に明るい五月晴れ
2003年4月5日/スタンウェイかベーゼンか、それが問題だ。
2003年2月12日/指輪
2003年1月13日/肩書き
・2002年12月23日/ 年の瀬のてんてこまい
2002年12月9日/批評とメモ
・2002年11月6日/アンリ・バルダのリサイタル
・2002年10月21日/なかなか根づかないクラシック音楽
・2002年9月26日/青山のブティック初体験
・2002年9月3日/鹿鳴館時代のピアノ
・2002年7月19日/竹島悠紀子さんのこと。
・2002年6月13日/ 生・赤川次郎を見た!
・2002年5月6日/海辺の宿
2002年3月28日/新人演奏会
2002年3月1日/イタリア旅行

2002年2月5日/25人のファム・ファタルたち

・2002年1月8日/新・阿佐ヶ谷会
・2001年11月18日/ステージ衣装
・2001年10月26日/女の水、男の水
・2001年9月18日/新著を手にして
・2001年8月/ホームページ立ち上げに向けて


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