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| 2003年2月12日/指輪
子供のころ、母の化粧台を漁って指輪を見るのは、大好きだった。といっても、ほんの数点しかなかったが。2月生まれの母は、誕生石のアメジストの指輪を2つ持っていた。18金台にプラチナで唐草模様の装飾が施してあり、オーバルミックスカットを施した濃い紫色の石がはめこまれている。なかなか凝った細工の指輪だった。普段にはめていたのは、ずっとシンプルな指輪で、やはり18金の枠が円い紫水晶を支えている。あまりいつもはめていたので、輪の部分が変形していた。 母が大事にしていたのは、プラチナ枠に立爪で止めたシンプルな黒い石の指輪だった。私が生まれる前に亡くなった父方の祖母から贈られたのだという。母は黒ダイヤだと言っていたが、のちに宝石店で調べてもらったらオニキスだろうということだった。父方の祖母は貧乏したので、持っていた宝石はほとんど食料品や日用品に姿を変えてしまったのだ。 学生時代、自分ではじめて買った指輪は、表面に唐草模様が浮き彫りにされた細い甲丸リングで、シルバー925と刻印されていた。留学中もずっと右手の薬指にはめていた。 結婚するまでは、あまり指輪には関心がなかった。婚約指輪ももらわずに、そのかわりスタンウェイのB型のピアノを買ってもらった。ハンブルクにある工場に買いつけに行ったら、留学中の同級生の奥さんたちが、普通はせいぜい0.5カラットぐらいのダイヤの立爪指輪をもらうのが関の山なのに、すごい太ッ腹なダンナさんだ、と騒いでいた。 結婚指輪を交換するとき、夫は普通のプラチナの甲丸リングを選んだが、私は18金で0.2カラットのメレ・ダイヤをちりばめたリングにした。石が台に埋め込まれているので、ピアノを弾くときも引っかからずに都合がよい。買ったのは阿佐ヶ谷の商店街の「オオクボ」という宝石店で、それをきっかけに、買い物のついでなどに店のショーウィンドーを見て歩くようになった。 「東京ジェム」という、自分のところで製造・販売しているという店にはよく行った。ピアノのレッスンなどでためた小遣いで、ときどきシルバー台にアメジストやトルコ石のはまった指輪を買った。無二の親友が結婚したときは、ここで18金台のラピスラズリの指輪を見つけて贈った。深いブルーできれいに金の浮き出た石だった。カルチエ風だという指輪は、18金台に9石、計1.12カラットのルビーが菱形にはめこまれている。これは、フランスに行ったとき、ピアノの先生の未亡人がとても気に入って、会うたびに「ク・セ・ボー」(なんてきれいなの)と言われたものだ。値段はたった1万5000円で、奥さんご自身は何百万円もしそうな指輪を沢山はめていたのだけれど。 少し金まわりがよくなると、新宿の三越のバーゲンセールに行くようになった。当時、宝石は税金がかけられたが、3万7500円以下のものは免税だったので、その値段の出物が沢山並べられている。18金台の真ん中に小粒のルビーの石をはめこみ、上下を3石ずつのメレダイヤで飾った指輪は、高校の同窓会に行ったとき、ピアノ科の同級生に「かわいい!」とほめられた。 三越で買った一番高い指輪は、プラチナ台に7石計1カラットのダイヤを花形にあしらったものだ。10万円で同じものが3点あったが、店の人が、「これが一番透明です」と選んでくれた。家のそばの「八雲洞」という宝石店のバーゲンセールに行ってショーウィンドーを見ていたら、店のおばさんが、「こんないいのしちゃって」と言っていたので、値段の割りにはよい品に見えるのだろう、と思った。 その「八雲洞」では、プラチナ台のサファイヤの指輪を買ったことがある。サファイヤは0.6カラットでまわりをテーパー・ダイヤとメレ・ダイヤが囲んでいる。ごくごく小さな指輪だが、ダイヤもいいものがはいっているし、何よりサファイヤが本当にきれいで、光の加減でくっきり二層に見えるのが気に入った。これも、親戚の結婚式にはめて行ったら、同じテーブルについていた大叔母さんに当たる人が、しきりに私の指を 動かしながら石の色合いを見ていたのを思い出す。 はめている指輪をほめられるのは嬉しいものだが、ちょっと気味が悪かったこともある。父違いの兄がプレゼントしてくれたお小遣いで買った18金の指輪(これは、新宿のステーションビル)は、アームがねじれていて、円いきれいな色のルビーのまわりを小粒の白っぽいダイヤが取り囲んでいる。伴奏でコンサートに出演した帰りに、喫茶店でお茶を飲んでいたら、ソロを弾いたヴァイオリニストが指輪に目をとめて、しきりに「きれいねぇ」と言うのではずして差し出したら、自分の指にはめてうっとりしながら、「私の指の方がよく似合うわね・・・」と言う。あわてて返してもらった。 リフォームした指輪もある。もう店はなくなってしまったが、荻窪の「アイ・ジュエリー」というところで、前に「八雲洞」のバーゲンで買ったルビーの立爪指輪をファッションリングに変えてもらった。2本のアームにメレダイヤを埋めこみ、中央に覆輪留めのルビーを配すると、見違えるようにモダンな指輪に生まれ変わった。この指輪は、荻窪の駅ビルにある「ジェエリー・ツツミ」の店員さんに「まぁ、ステキなデザイン」とほめられた。 結婚10周年のときには、ルースのダイヤを買ってもらった。生まれてはじめてクォリティ(VS2)、カラー(E)、カット(G)とそろった0.6カラットの裸石で、やはりアイ・ジュエリーで台をつけてもらった。覆輪留めにしてまわりに18金の線を2本配したデザインである。下取りに出した地金も加えて、ずっしりと重たいプラチナの指輪になった。 ピンキーリングに凝ったこともある。最初はプラチナの唐草模様、次が18金のルビーのリング。小粒だが、とてもきれい。買ったのは「ジェエリー・ツツミ」。それから、ホワイトゴールドに星型のダイヤが3石はいったリング。やはりホワイトゴールドにブルーダイヤのはいったリングは、娘が気に入ったというのでプレゼントした。最後に、フランス語で文字が刻まれ、小さなダイヤも一石はいったポージー・リング。これは、新宿の京王デパートで買った。 2、3年前からは、阿佐ヶ谷の商店街のはずれにある「ホリコシ」というリサイタルショップによく行くようになった。グレードものは置いていないが、手ごろな値段でしゃれたデザインのものをそろえている。 人指し指用のプラチナと18金のコンビリングは、真ん中にハート型のサファイヤがはめこまれ、まわりをメレダイヤが囲んでいる。ずらりとサファイヤの並んだ18金のヘビ・リングも人さし指にはめる。プラチナの菱形の指輪は、真ん中にクロスの形に並べられたダイヤがアクセントだ。これは、中指用。18金で3本のアームがヘビ・リングのように巻きつき、真ん中に小さなルビーが顔を出しているリングも、なかなかおしゃれ。アーム部分にはメレダイヤがランダムにはめ込まれている。プラチナで角カットのルビーが7石並んでいる一文字指輪は、薬指用。テーパーダイヤだけのV字リングは、とてもシャープによく光る。これも、薬指。ミステリー・セッティングというのだろうか、7石計1カラットのダイヤを爪止めせず、真ん中で止めただけの花形のプラチナリングは、下から光がはいるのでよく光り、今一番気に入っているものだ。 リサイクル・ショップだけあって、こわれることもある。小粒のブラックオパールをテーパー・ダイヤでセットした指輪はとても気に入っていたのだが、あるとき留め金がはずれて石がどこかに落ちてしまった。メレ・ダイヤが3粒V字にセットされた指輪も、ダイヤが一粒落ちてころがって行ってしまった。ときどき床を探してみるが、見つからない。指輪ではないが、ルビーのまわりをダイヤで取り囲んだプラチナのネックレスも、買ったとたんヘッド部分がとれてしまったので、やはり阿佐ヶ谷の「ジュエリーロード」というリフォーム店で指輪にしてもらった。 忘れていた、指輪でナンパされたことが一度だけあったっけ。もうなくなってしまったが、阿佐ヶ谷のある古道具屋で買ったオパールの指輪、四角い18金台にベビー・オパールが5石並んでいる可愛らしいものなのだが、ある日それをはめて駅のホームで電車を待っていたら、「いいねぇ、そのセンス」と指さした男がいる。どうみても、私より20歳は年下。「ねぇ、名前は何ていうの? 僕はね」と名乗りながら、すばやく紙切れに番号を書き、「よかったら電話して・・・」と去っていった。モチロン、電話シテマセン。 |
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