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2003年12月12日/テレビに出てみました ──いづみこさん、いづみこさん、すごいよ、テレビ、テレビ! 大阪のマネージャーさんのキダさんが電話してきた。 ──すっごく人気のある番組でね、交渉するのが大変やったんよ。これはもう決まっちゃったことだからね、ごめんね。コンサートの前日なの。 ──うん? ──だからね、28日。お昼ごろスタジオ入りして番組は4時からで、1時間後には終わるから。 ──何て番組? ──上方クラブの「金曜コンサート」っていうのよ。NHKの。関西方面でしか放映していないけど。 テレ朝の徹子の部屋と同じ時間帯に放映しているスタジオ・パークみたいな番組かな、と思った。ときどき、クラシックのピアニストも出演している。聞き手のアナウンサーがざっくばらんな人で、とてもいい話をひき出している。 それにしても、11月29日、大阪のザ・フェニックスホールでのリサイタル前日がテレビ出演とは──。何か、疲れそう。 ──それでね、これもね、あんまりこちらの希望を出すと、その時点で、それじゃ出演しなくていいですって言われちゃうから、ごめんね。仕方ないのよ。スタジオにピアノがないの。 ──じゃ、トークだけ? ──クラヴィノーヴァなんよ。それを弾いて下さいって。 ──だって、弾いたことないよ。慣れてないから。 ──いいじゃない、何かややこしくない曲を弾いてトークの分量増やせば。 さすがキダさんらしいアバウトさ。 2週間後ぐらいに、台本が届いた。表に当日のスケジュールが記されていて、2時から音合わせ、2時45分からカメラリハ、4時5分から本番。演奏は3〜4曲でトータル11〜12分。冒頭の曲は比較的ポピュラーなものを弾いて下さい・・・などと書かれている。 お伺い事項として「調律のピッチをお知らせ下さい」という項目があった。でも、クラヴィノーヴァで調律のピッチ?? 担当のディレクターさんに電話してみた。 ──あのう、スタジオにピアノがないって伺ったんですが。 ──いえ、小さなグランドなんですが、運ばせることに致しました。 ──機種はわかりますでしょうか? ──えーと、ヤマハなんですが、そこまではちょっと。 クラヴィノーヴァとはまた違った不安がよぎる。もしかして、ジャズ用のピアノではないだろうか? 軽音楽系はなるべく負担を軽くするために、触ったとたん音が出るようなピアノに調整してしまっていることが多く、クラシック系の弾き方では勝手が違うのだ。 ぺらんぺらんのピアノだったときのことを考えて、冒頭にはショパンの「小犬のワルツ」、ついでドビュッシー「亜麻色の髪の乙女」と「月の光」、最後にショパンの遺作のワルツを弾くことにする。 といっても、プログラムをまとめて弾くのではなく、冒頭の「ポピュラーな曲」を弾いたあと、話題は突然変わり、「和歌山・こだわりの天然酵母でつくられたパン」の紹介が7〜8分つづく。それから、アナウンサーが「金曜コンサートです!」と宣言し、2、3分弾いたところでトーク席に移る。 6分ほどお話したらまたピアノに向かい、今度は2曲つづけて弾いて、私の出番は終わり。そのあと番組は「歩数計で計る心の旅」のコーナーに移り、田主誠さんという版画家の方が宝塚市のお寺を訪ねた折りのヴィデオを流す。 エンディングでまたトーク席に呼ばれ、翌日のコンサートの宣伝をして番組終了。そんな流れらしい。 台本には、「ドビュッシーをテーマに著書やアルバムを数多く発表されていますが、書くこと、弾くことは切り離せないもの?」とか、「祖父であるフランス文学者青柳瑞穂氏の家には井伏鱒二や太宰治らが集っていたと伺いますが、その環境が文筆活動に結びついたのですか?」などの質問事項が並んでいる。新幹線に乗っている間にそれぞれの想定問答集をつくり、だいたいの回答を書き込んでおいた。 13時に新大阪に着き、タクシーでNHKに向かう。意外に道路が混んでいて、到着は13時半すぎ。ピアノは調律中とのことで、先にヘア・メークをすませるように言われる。 メーク・ルームにはずらっと化粧台が並んでいる。軽くお化粧していたので、メークさんがその上からドーランを塗ってくれる。指先につけて点々と置いていくのだが、氷を乗せているような感触で、とても冷たい。ひょっとして冷やしてあったのかしら? 見てみたいのだが、目をあけるわけにいかないのが残念だ。 ひとしきり塗りたくったところで、目のお化粧。上下にアイラインを描き、シャドーをぼかす。睫毛のビューラーだけは自分でするように言われるが、手袋をはめてカイロを握りしめているので、なかなかうまく上がらない。マスカラで巻き上げていただいた。 ヘアは、少し逆毛を立ててトップにボリュームをもたせる。あとでまた直しますからと言われて、終了。これでだいたい30分。 調律が終わったとの知らせがはいり、ドレスを持ってスタジオに行く。カメラ写りを考え、藤色のドレープのはいったドレスを選んだ。紅白歌合戦のリハーサルで、歌手たちがみんな私服のまま、カメラに向けてドレスを持って立っている風景を思い出す。 最初は、音合わせと演奏のカメラ・リハ。案の定白いピアノだったが、それほどぺらんぺらんでもなく、少しは深みのあるタッチでほっとする。ただし椅子のレバーの具合が悪く、頑として下がってくれなかったり、逆に下がりすぎたり、斜めで止まってしまったり。高さの調節にはホント苦労した。 軽く練習したあと、すべての曲のタイムを計るとのことで、ストップ・ウォッチをかまえたディレクターさんのキューで弾きはじめる。ロケット発射みたいに「5、4、3、2、1、ドーン」でピアノを弾くのは、なかなか大変だ。ブレスするひまがない! 指揮者みたいにアインザッツをくれないかなぁ。 弾いている間に、カメラが上をぐるぐるまわったり、ぐっと横に迫ってきたり。なかなか集中できない。おまけに、マイクの立てかたがうまく行かなかったということで、「小犬のワルツ」だけ3回も弾くハメになった。 音合わせが終わると、今度はキャスターの葛西アナウンサーとアシスタントの浜田千春さんが出ていらして、カメラ・リハが始まる。こちらはトークの進行にもとづいていて、演奏は開始と終了の部分だけ。 葛西さんは中年の気さくな男性、元モデルという浜田さんはすらっとした美人。私もきっとそうに違いないのだが、テレビに出る方はドーランを塗っているので、何だかハニワと話をしているような気分だ。慣れないスタジオで、どのタイミングで出て行ったらよいのか、どこに立ったらよいのかわからず、まごまごしてしまう。 ピアノを弾くタイミングも難しかった。せっかちな私は、葛西さんに、「では、弾いていただきましょう」と言われたとたん、ピアノに向かって弾きはじめようとするのだが、カメラが全然間に合わない。何をするのもディレクターさんを見て、キューを確認してから、とクギをさされてしまった。 「小犬」を弾き、「酵母パン」が紹介されたあと、トーク席に招かれてお茶の接待がある。これは、浜田さんがゲストのイメージで選んだお茶をふるまうという趣向で、その日はカモミール・ティだった。中国茶やハーブティが好きです、と言っておいたからかもしれない。 カメラ・リハが終わったあと、楽屋に戻ってドレスに着替え、メイクとヘアーの手なおしをし、4時ちょうどにスタジオに戻る。観客の皆さんと記念撮影するためだ。局の募集に応じた30名ほどの方々が座っていらっしゃる。実は、大阪音大の大学院を修了したお弟子さんのピアニストも一人、サクラでまじっている。ひそかにアイ・コンタクト。 私はそのままピアノの前に座り、番組開始の音楽が流れる。画面には、スタジオの外に飾られたクリスマス・ツリーが映される。葛西さんと浜田さんがしゃべりながらはいってこられて、挨拶。私も立って、いったんお二人の隣に立つ。床に白いテープが貼ってあった。 「大阪とのご縁は?」「月に1回ほどの割合で大阪音大に教えに来ています」「いつごろから?」「十年ほど前から」「もうそんなに!」 そんなやりとりのあと、「では、弾いていただきましょう」となり、ピアノに向かう。「小犬」を弾き終わったあといったん楽屋に戻る。 5分ほどしてディレクターが迎えに来て、すぐピアノの前に座る。葛西さんが「金曜コンサートです」とアナウンスすると、音楽が流れる。ディレクターのキューに従って、「亜麻色の髪の乙女」。弾き終わったあとトーク席に移動する。 浜田さんがカモミールの説明をなさって、お茶をついで下さる。お皿ごとカップを持つのか、カップだけ持つのか、口をつけるだけなのか、ちゃんと飲むのか、そんな細かいところがわからず、まごまごする。「いつもどんなハーブティを飲んでいますか?」という質問が来る。「リラックスしたいときはラヴェンダー、元気になりたいときは・・・何だっけ?」これが、どうしても思い出せない。「南フランスに留学していたので、庭中にハーブが生えていました。それを摘み取って・・・」などという話でごまかす。 ティー・タイムが終わると、本の話になる。これまで書いた七冊の本が映し出され、葛西さんが紹介して下さるのだが、おっしゃることが台本とまるで違う。「書くことと弾くことは・・・」などという質問ではなく、いきなり「この人は、ピアノ演奏だけではなく、本もこんなに沢山書いているんです」とくる。取材でロワール河の城に行ったときの写真なども映される。その後のやりとりは、質問のはるか先を行くようなものばかりだった。折角、新幹線の中で学習してきたのに・・・。 ついで、画面に祖父の写真が出る。フランス文学者だが、むしろ骨董蒐集で知られたこと。尾方光琳の肖像画を掘り出したことなどを語る。井伏鱒二や阿佐ヶ谷会にはふれず、話題はドビュッシーに移る。一見きれいな音楽を書いたけれど、実は世紀末的などろどろしたものが好きで、というお話をすると、葛西さん、実際に弾くときはどうするんですか? とつっこんだことを聞いて下さった。「ベースにはどろどろしたものを秘 めながら、でも表面上はとても美しく」とご説明すると、すかさず葛西さん、「知って弾くか、知らないで弾くかの違いですね」と受け、「では、『月の光』をどうぞ」とうまく流れた。この辺りは流石だ。 「月の光」を弾き終えたあと、ほんの30秒ほどで曲の解説をする。昼間の興行を終えた喜劇役者たちが次の町に向かう途中、月あかりの道をものがなしく歩いている。こっけいな身振りやお面で人を笑わせてはいるが、彼ら自身は決して陽気なわけではない、という詩にもとづいていると説明。最後にショパンの遺作の「ワルツ」を弾いたが、興奮していてくり返しをひとつすっとばしてしまった。 最後に、葛西さんが「いやぁ、鳥肌が立ちました」と感想を言って下さり、ドビュッシーについては聞いたけれど、ショパンについての思いは? とふって下さったので、「病弱で、華奢な体に燃えたぎる情熱を秘めた人だった」と説明。葛西さんの絶妙の質問のおかげで、音楽についてはずいぶん深い話ができたように思う。 番組終了後、レギュラーで「心の旅」のコーナーを担当していらっしゃる版画家の田主さんとお話する。「月の光」を気に入って下さったようなので、CDを贈呈した。番組では風景を描いた作品が紹介されているが、本来は抽象版画がご専門で、ドビュッシーやリストのピアノ曲を聴きながら制作にはげんでいらっしゃるとか。 思いがけない出会いもあり、ディレクターやアシスタントさんたちはとてもいい方ばかりだったし、意外に楽しいテレビ出演だった。 |
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