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沖縄旅行の集合は、5月9日の9時40分。メンバーは、旧書評委員で哲学者の木田元先生、コラムニスト山崎浩一さんご夫妻と坊ちゃんの晶君。元書評編集長の牧村健一郎さん、元々編集長の中村謙さん、現在の私の担当の西岡一正さん、そして、現書評委員で、去年、お母さんと一家の歴史を綴った『美麗島まで』というステキなご本を出されたノンフィクション作家の与那原恵さん、私たち夫婦の9名。ただし、朝日新聞関係者は、牧村さん以外は最終便で沖縄に到着の予定。 案内係の与那原さんは、事前に詳細な遠足のしおりをつくり、沖縄の食文化や見学するグスク(城)についての資料をコピーして下さった。中で、与那原さんのお祖母さんの兄に当たるという古波蔵保好さんの書いた「沖縄料理物語」の一節には、心ひかれた。 古波蔵さんのお母さんは、よく「らふてえ」を作ってくれたという。市場に出かけて豚のもも肉のカタマリを買ってくると、七輪に火を起こして皮を焼く。そのころ沖縄で飼育されていたのは、黒い毛の豚ばかりだったので、内地で白い豚を見た保好は、豚のおばあさんだと思ったとか。皮が軽く焦げると井戸端に持って行って、毛根がすっかりなくなるまで包丁で表皮をけずる。それから丁寧に洗って、角切りにし、鍋に入れてかまどの火にかけた。やがて皮と皮の間のあぶら身が溶け出して、あぶらの中で肉が煮られる感じになる。ころあいを見て、石ころのような氷砂糖を入れる。それが溶けるにつれて、甘味が肉に浸透していく。さらにゆっくり煮て、しょうゆで味をつける。 できるまでに半日はかかるし、かまどの火を弱いままに保っておかなければならないので、目が離せない。古波蔵さんの妹の登美さん──与那原さんのお祖母さん──は、「美栄」という琉球料理店を開くにあたって、このらふてえを料理屋向きの味につくりかえた。「美栄」は、沖縄で最も格式の高い老舗として知られている。今回のツアーでは、最後にここでの晩餐会が予定されていた。 待望の沖縄旅行だったが、のっけから災難に見舞われた。飛行機がいざ飛び立とうというときになってエンジンがかからず、点検作業をはじめてしまったのだ。幸い、待合室に引き帰したりすることなくエンジンも無事にかかり、那覇空港に着いたのが、50分遅れの13時40分。与那原さんの子分たちの運転する車で、ヒージャー(山羊肉)料理の店「世名」に行った。 これは、私のリクエストによるもの。何かの折に与那原さんが、山羊汁のことを話していたのをききつけた。小さいころ、田舎の隣の家で山羊を飼っていて、毎朝しぼり立ての山羊乳が届けられたことがある。独特の臭みがあるのだが、ファット分が牛乳ビンの口のところにこびりついていて、濃厚で美味しい。鹿肉やイノシシは食べたことがあるが、山羊肉というのはきいたことがない、折角沖縄に行くのだから是非食べてみたいと言った。与那原さんは、相当臭いから大丈夫かなぁと心配していたが、牧場直営店でおいしいヒージャー料理を食べさせる店を捜して、案内してくれた。 メニューには、山羊汁の他、山羊のさしみや山羊にぎり・・・なんぞというのも並んでいる。まさに山羊づくしだ。最初は、オリオンビールで乾杯。ゴーヤチャンプルーやえだまめ(これが、いつも食べているえだまめと全然鮮度が違う、緑が美しく、香り高い)、そして待望の山羊のさしみ。ルイベになっていて、半分溶けたあたりで生姜醤油でいただく。コリコリしてとても美味しい。臭みはほとんどない。山羊汁は、骨つきの山羊肉がごろごろはいっているスープで、大量のよもぎの葉を入れて食べる。韓国料理のコムタンをもっと濃厚にしたような感じで、全然臭くないし、肉はしまって味がよいし、すごく美味しかった! ただし、よもぎは相当苦かったけれど。ビールを3ジョッキもおかわりし、相当アルコールがまわったところで車に乗り、知念村の聖地「斎場御獄」(せーふぁーうたき)を見学した。 那覇のハーバービューホテルにチェックインし、8時に安里市場近くの料理屋「うりずん」に向かう。皆さんはビール、私は泡盛をシークワーサーという柑橘類で割ったサワーで乾杯。お料理はいろいろなものを少しずつ取ることにした。ソーメンチャンプルーやラフテー、ミミガーなどおなじみのものの他に、海草の海ぶどう──ぷちぷちした食感がたまらない──や、ナーベラーンブシー(へちまの豆腐味噌炒め)──こちらは、へなへなしているクセに妙に粘りけのある、独特の食感がクセになる──、島ラッキョウ──エシャレットに似ている──、スクガラス豆腐──島豆腐の上にアイゴという小魚の塩漬けが乗っていて、そのまま食べる──などが次々と出てくる。中でも人気があったのが、田芋に豚肉、かまぼこ、しいたけを混ぜて上げたコロッケ様のドル天。これは「うりずん」オリジナルだという。そして、豆腐よう。これは、豆腐をサイコロ形に切って陰干しにしてから泡盛で洗い、米麹と紅麹で漬け込んだ珍味。チーズに似ていて、泡盛と抜群に相性がよい。 「うりずん」の泡盛はカラカラーという土瓶のようなとっくりにはいって出てくる。10年古酒だという。ぐい飲みのような大ぶりの杯に注ぎ、別に水を飲む。与那原さんから、いくら飲んでも二日酔いしないようにと、ウコンの錠剤の差し入れ。泡盛のクースは、古いものでは三百年ぐらいのものもあるそうだが、ただ置いておくだけでは度数の低い酒になってしまうらしい。仕次ぎといって、一番古い酒に別の酒を、古い順に足していくことによって、酒に活気と香りがよみがえる、そんな話を与那原さんがしてくれた。 そのうち、最終便で飛んできた朝日組も合流し、エンカイの最後はセーファン。香ばしい炊き込みごはんの上に野菜と金糸卵をのせ、だしをかけたご飯料理。これがまた美味しくて、お腹がいっぱいなのにするっとはいってしまう。 次の日の朝食は、ホテルでのバイキング方式。VIPも泊まるというハーバービューホテルの朝食は和・洋・中の三種類あって、我々は中華おかゆを選んだ。これがまた美味しくて、おかゆの他に、ゴーヤやソーキなど、さまざまな沖縄特有の食材を調理した小鉢が選べる。この旅は太って帰ることを予想して少しゆるめのスカートやズボンをってきたのだが、正解だった。 10時集合、与那原さんの子分たちの運転する車で、北部のビーチへ。初めて見る沖縄の海は、何と表現したらいいだろう、恐ろしいほど透明で、翡翠の一番透き通ったところのような色あい、沖に行くほど濃くなって、それがまたきれい。しばらく、サンゴのかけらを拾ったり、やどかりを追いかけたり、海の水に足をつけたりして遊んだ。 お昼は、ビーチ近くの食堂に行った。例によってオリオンビールを頼み、ソーキそば、テビチそば、中味汁を注文する。中味汁というのは、豚の大腸、小腸、胃袋を長時間煮込んだもの。全然どろくさくなくて、すっきりした味わい。沖縄名物のソーキそばは、細めのうどんのような麺に、巨大なスペアリブがごろごろ乗っている。肉が骨からぽろっとはずれるほど柔らかい。コーグレースという、島とうがらしを泡盛とお酢に漬け込んだ調味料をかけて食べる。テビチはその豚足版で、骨にこびりついたゼラチン質がぷよぷよしていて、最高。私は、文字通り骨の髄までしゃぶった。 帰り道、280年前の代表的な沖縄の豪農の家だという中村家住宅(重要文化財)、石組みが美しく、世界遺産に登録された中城(グスク)城跡を見学、那覇に戻ったあと、国際通りの「久高民芸品館」に行って沖縄ガラスを見たり、サンゴ専門店で娘のおみやげを捜したり、壺屋焼という、特有の焼き物を売る店に行ってカラカラーのセットをあれこれ物色したり、牧志公設市場で冷凍の山羊汁やソーキ煮を買って東京に送ったり・・・と盛り沢山な一日。 夕食は、待望の「美栄」へ。木造二階建てのしっとりした店だ。二階の広いお座敷に通される。廊下の突き当たりには、古い焼き物や漆の器が飾ってあった。さっき店で陶器を沢山見てきたばかりだが、やはり古いものは色がこなれているし、肌合いも全然違う。 最初に出てきたのは、六角形をした美しい漆塗りのお重。独特の濃い赤は、豚の血をまぜることによって得られるとか。蓋をあけると、煮凝りやかまぼこなどの前菜が盛られている。中でもおいしかったのは、ポーポー。細長いクレープ状の巻きもので、練った豚肉を味噌であえたものがくるんである。白い生地が漆の赤に映えて、とても美しかった。 泡盛がカラカラーにはいって運ばれてくる。45度のクース。「うりずん」の杯は大きかったが、こちらは本当に小さなちょこで、そのかわり氷水を入れるグラスは大きい。泡盛はちびちびやりながら、水をぐいぐい飲む、そんな感じだ。ピーナッツを使ったジーマミー豆腐、豚肉に黒ゴマを塗って蒸したミヌダルなどが次々に運ばれてくる。「うりずん」の豆腐ようも美味しかったが、「美栄」のはまた格別。上品なくすんだ色あいの中に、うま味をとじこめている。ラフテーは、古波蔵保好さんがつくり方を書きとめている。皮つきの豚肉を塊のまま茹で、角切りにしてから、泡盛、醤油、砂糖(または水飴)を煮立てた中で煮込む。厚い鍋を使うのと、調味料に泡盛を加えるためにとろりとした柔らかさに仕上がるという。食べてみるとなるほどその通りで、もちっとした皮から脂身まで、舌の上でとろけてしまいそうだ。中味汁も、内蔵を何回も洗って臭みをとり、深く濃い味わいだけは残しつつも洗練されたすまし汁をつくりあげている。 「美栄」では、もうひとつ御馳走があった。与那原さんの十五年来の友人というサンシンの名手、新良幸人(あら・ゆきと)さんの弾き語り。そして、志田真木さんという、沖縄県無形文化財の踊り手による琉球古典舞踊。演目は「浜千鳥」と「加那よ−」で、歌とサンシンは新良さん。新良さんの発声は謡とも民謡とも違う独特なもので、詞も万葉仮名のような不思議な響きがした。志田さんは面長の美しい女性で、「浜千鳥」ではきりっとした紺かすりをウシンチー(帯びをしめない着付け)にし、「加那よー」ではやわらかいピンク系の着物に変え、それぞれの魅力を堪能させて下さった。美人に弱い木田先生は、鼻の下を大いにのばしていらしたけれど、歌がはじまってしばらくするとすっと障子があいて踊りながらはいってくるし、歌がまだつづいている間に、さっと踊りながら去っていく。そのさりげなさがとてもステキだった。 翌日は、別行動。皆さんは首里城ツアー。私は朝食(今日は、洋食にしてみた。普通のベーコンや卵料理の他に、魚のクリームソース煮やソーキのトマト煮もあって、美味)の後、部屋でパソコンに仕込んできたラローチャの演奏を聴きながら楽譜を読み、再度にわか勉強のあと車で那覇空港へ。「泡盛蔵」の出店で15年ものという泡盛を2本東京に送ってもらい、サンゴのネックレスを娘のために買い、コーグレース、ハブ酒、豆腐ようなどを買い込んで名古屋行きの飛行機に乗った。 |
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