|
|
|
|トップページ| プロフィール
| 今年の活動 | 新刊|新譜|コンサート|CD|書籍|書評、CD評
| |執筆&インタビュー|日記 | E-メール| |
|
| 2003年4月5日/スタンウェイかベーゼンか、それが問題だ。 4月1日〜3日まで、レコーディングだった。曲目は、シューベルト「高雅なワルツ」にはじまり、リストやショパンのロマン派のワルツ、ラヴェルやドビュッシー、サティといったフランス近代のワルツ。いろんな時代、いろんなスタイルの作曲家の作品が混ざっているので、今回ほどピアノの選択に悩んだことはなかった。 これまでのCD、ナミ・レコードで録音した3枚は、いずれも三鷹の芸術文化センター備えつけのニューヨーク・スタンウェイを使っている。ちなみに、スタンウェイにはハンブルクとニューヨークの2種類があり、タッチや響きがずいぶん違う。ハンブルクの方はタッチは軽めだが音は渋めだし、ニューヨークは、タッチは重いが音は派手め。ハンブルク・スタンウェイがあまり好きではない私は、ドビュッシーのCDのときなど、ニューヨーク・スタンウェイの独特の響きにずいぶん助けてもらったおぼえがある。いっぽうで、クープランのクラヴサン曲を録音したときは、装飾音がなかなかうまくはいらずに苦労した。 キング・レコードで「水の音楽」を入れたときは、中野のベーゼンドルファーのショールームから「インペリアル」という楽器を運んでもらった。この楽器は、紀尾井ホールや浜離宮ホールでリサイタルを開くときは、たいてい運んでもらっているレンタル用のピアノである。ベーゼンのインペは低い方の鍵盤が普通のピアノより多く、その分バスはよく響くが、気をつけないと左手を飛び間違えることがある。タッチは、昔のフランスのピアノ、エラールに似ているとも言われ、典雅な美しい響きが出るし、羽根のように軽くて弾きやすい。しかし、音の切れ味はスタンウェイの方がよいし、パンチもきく。 いわば、妖艶でちょっとあばずれ気味のピアノと、清純で端正なピアノの選択ということになる。事前に試弾の機会をつくってもらって、両方でプログラムを弾いてみた。 はじめに弾いたのは、三鷹のニューヨーク・スタンウェイ。たまたまその日の楽器の状態があまりよくなくて、とくに中音部域の音が詰まったようになって全然出ないので、広い音域にまたがるアルペジオなど、さんざんだった。タッチも重くて、連打音がうまく鳴ってくれない。オクターヴの連続など、すぐに腕が疲れてしまう。 これは大変だと思って、ベーゼンのショールームに向かった。こちらは、さすがにウィーンの楽器だけあって、シューベルトの「高雅なワルツ」がご機嫌に響く。この楽器で弾けば、文字通り優雅で上品なワルツになるだろう。いっぽうで、響きが清純すぎて、ショパンの物憂いワルツなど、あまり雰囲気が出ない。そもそも私のピアノ自体があまり色気のある方ではないので、余計モーツァルトのようなショパンになってしまう恐れがある。 リストやラヴェルも、「水の音楽」でカップリングした「エステ荘の噴水」や「水のたわむれ」のときには、さわやかで繊細なベーゼンの音がぴったり。ひとつひとつの水の粒がうまく表現できたのでよかったが、爛熟しきった「高雅で感傷的なワルツ」や悪魔的な「メフィスト・ワルツ」では、むせかえるような官能性に欠けるところがある。 でも、とにかく羽根のようなタッチのピアノだから、ショパンの「華麗なる大円舞曲」の連打音、「小犬のワルツ」のパッセージなど、面白いようにまわってくれる。ドビュッシーの「ロマンティックなワルツ」のアルペジオもきれいに出るし、とにかく弾いていて気持ちがいい。リストのオーケストラ的なところも、低音がよく響くのでとても弾きやすい。 一回では決まらなかったので、もう一度、両方を弾く機会をつくってもらったが、2回目の方がニューヨーク・スタンウェイの状態がよく、余計迷ってしまった。ピアノを運んだ場合、どうしても最初のうちは機嫌が悪く、レコーディング初日には思ったような演奏ができないことが多いからだ。その間、スケジュールをあけて待っていて下さったベーゼンのショールームの方々には、大変ご迷惑をおかけすることになった。 結局、録音の3日前にホール備えつけのピアノで試し録りをしてみて、最終的にニューヨーク・スタンウェイで行くことに決めた。今回のプログラムでは、メロディを単音で歌うところが沢山出てくるが、ニューヨークのスタンウェイは音ののびがとてもよいので、私なりの気持ちを託しやすい。タッチのバネもあり、うまく乗るコツをつかみさえすれば、リストなども弾きやすくなるだろうという感触も得た。 調律師の斉藤孝さんには、このピアノで弾きにくいところを列挙して、FAXでお送りした。中音部域のタッチが詰まったようになって、 とくにアルペジオが弾きにくいこと。タッチが重く、連打音がうまく鳴らないこと。しかし、タッチのバネ、ある種の抵抗感はそのまま残しておいてほしい・・・等々。どちらかというと相反する注文で、受け取った方はずいぶん悩まれたようだ。 しかし、レコーデング初日にホールに行ってみると、あれほど弾きにくかった中音部の詰まりはなくなり、アルペジオもハモるようになっているではないか。連打音も、ベーゼンで弾くときほどではないが、音の粒がそろうようになった。斉藤さんに、「いったい、どんな魔法を使ったんですか?」と伺ってみたが、「いや、やるべきことをきちっとやっただけですよ」と事もなげにおっしゃるだけ。 結果は・・・これから編集テープを聴いてみないとわからないが、いろいろな音色やタッチが要求されるプログラムでは、何に一番力点を置くかで楽器の選択も変わってくる。今回は、弾きやすさよりも音楽的なコンセプトにこだわった結果、ニューヨーク・スタンウェイを使用することになった。その分、ピアニスティックな面ではいくぶん損をしてしまったかもしれないが・・・。 秋のリリースを楽しみにしていて下さい! |
|
|
|
Copyright(c) 2001-2005 WAKE UP CALL
fountain@ondine-i.net |