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青柳いづみこのメルド日記


2002年7月19日/竹島悠紀子さんのこと。

 安川門下の先輩竹島悠紀子さんが亡くなった。元内閣官房副長官補の竹島一彦さんという方の奥様で、ご自身も芸大付属高校と芸大の講師。ピアノ初見と副科ピアノを担当していらして、本科の生徒さんも四人持っていらした。とても面倒見のよい方で、悩み相談係のようなところがあり、私も芸高に勤めていたころはずいぶんお世話になった。その後も、本を出すたびに電話を下さって、生徒たちにすすめるから、とまとめて買い上げて下さったり。いつかゆっくりお話しましょうね、が口ぐせだったのに、その「い つか」は永久に来なくなってしまった。
 私たち音楽人にとってはかけがえのない存在なのだが、新聞の記事では「竹島氏の妻 、急死」となっている。せめて芸大講師とか、ピアノ教師とか・・・書けなかっただろうか。いくらご主人が社会的地位の高い方だといっても、奥様に立派な職業があるのに 、それを無視して「妻」で片づけるのは、何だかモノみたいで、腹立たしい感じがした。

 芸高・芸大の講師を勤める友人に電話して、やっと詳しいことがわかった。ご主人が栄転されることになり、前のお仕事との間に一ヶ月の休みができたという。 もう社会人になっている二人のお子さんも連れて、結婚三十周年を記念してパリに旅行 された。新婚当時ご主人はODAにいらして、パリ在勤だった。思い出の地を再訪し、悠紀子さんが留学していらしたころの恩師にも会ったり、ブルゴーニュ地方でおいしいワインを楽しんだり。
 二週間の旅を終えて飛行機に乗り、ハバロフスクの上空を飛んでいる間に、気分が悪くなり、乗客の中にいたお医者様に介抱していただいたが、そのまま亡くなってしまわれた。
 普段から血圧が高く、降下剤を常用していらしたという。お母さまの介護も、もう十年以上も自宅でなさっていて、お出になりにくいはずなのに、私のコンサートなどにも必ず足を運んで下さった。学校のお仕事もお忙しかったし、ご主人の関係のおつきあいもさぞ多かったことだろう。少し何もかも引き受けすぎてお疲れだったのではないか、というのが同僚たちの受けとめ方だ。

 前夜式とお葬式は、安川加寿子先生と同じ霊南坂教会。音楽葬にしたいということで、牧師さんのお話のあと生徒さんや同僚の先生が交替でピアノを弾き、献花のときは、芸大付属高校の生徒たちがオーケストラと合唱でフォーレの「レクイエム」を奏でた。 お写真は、パリの旅行中に撮ったはじけるような笑顔のものが選ばれ、余計涙を誘った。
 本当にすばらしい式次第だったのだが、ひとつ残念だったのは、ご主人のお立場の関係上、要人が数多くいらして、少し雰囲気が変わってしまったこと。

 前通式のとき、私は少し遅れて行ったのだが、記帳を済ませて待っていても、中にはいれない。控えの間までいっぱいとのことだったが、黒いリムジンで次々にやってくる政府要人は、真ん中をスイスイ通って中にはいっていく。あとで友人にきいたら、前の方二列はあけてあったそうだ。小泉首相もいらしたが、音楽がお好きなのに、ピアノ演奏のときには間に合わなかったとのこと。私たちは、要人の方々が退出なさり、中にいらした方々がすべて献花を終わるまで、一時間ぐらいずっと外で待っていた。
 お葬式では、これに懲りて三十分前に着くようにした。このときは、扇大臣がいらしていたが、前夜式ほどの混乱はなかった。悠紀子さんの生徒さんでドイツに留学中の内田美保さんや、ピアニストとして活躍している同僚の松尾奈々さんが、心にしみいるような演奏をなさった。このピアノは、安川先生が霊南坂教会に寄付されたもの。本当に澄んだきれいな音がする。しかし、こういうときにピアノを弾くのは、大変なプレッシャーだろう。安川先生のご葬儀のとき、献花の間交替でピアノを弾く役を仰せつかったが、かなり緊張したのを思い出す。

 献花を終え、他の方々が献花される間、別室で芸高の同僚の先生たちと少しお話した。非常勤講師は、自分が本科に合格させた生徒しか教えられないのだが、悠紀子さんは本科の生徒も増え、今が一番充実している、とおっしゃっていらしたこと。その生徒さんたちが校内演奏会に出演して、すばらしい演奏をしたのをお聞きになったあと、「じゃ、またね」と挨拶して旅立たれたこと。これからますますいいことが沢山あったのに 、と悔しがる先生もいれば、ご主人も栄転され、ご自身のお仕事も順調で、よいご旅行をなさり、幸せの絶頂で逝かれた、いかにも彼女らしい、という声もあった。
 最後の食事が機内食だったのは、ちょっと残念だったわ・・・グルメだった悠紀子さん、今ごろ天国でこんなことをおっしゃっているかもしれない。 

MELDE日記・目次
・2002年6月13日/ 生・赤川次郎を見た!
・2002年5月6日/海辺の宿
2002年3月28日/新人演奏会
2002年3月1日/イタリア旅行

2002年2月5日/25人のファム・ファタルたち

・2002年1月8日/新・阿佐ヶ谷会
・2001年11月18日/ステージ衣装
・2001年10月26日/女の水、男の水
・2001年9月18日/新著を手にして
・2001年8月/ホームページ立ち上げに向けて


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