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2002年5月6日/海辺の宿

5月の連休中、兵庫県は山陰地方の田舎に帰っていた。
一日、海辺の町に小旅行に出た。日本海側の海は、よく晴れた日でもあまり明るくならず、ちょうどワカメをもどしたときのような深い青緑色をしている。海岸線は荒波で浸食され、断崖・絶壁や洞門、岩礁、奇岩が点在し、見どころは多い。
香住港という、冬は松葉ガニの漁獲で賑わう小さな港から、海岸めぐりの遊覧船が出ている。これがけっこうややこしい。
一番長いコースは1時間半で、天然記念物の「釣鐘洞門」まで行く。二つの洞穴が中でつながっていて、真ん中が190畳ぶんの巨大なドーム状になっている。波がおだやかなときは、東側の入り口からはいって西側にぬけることができる。
二番目のコースは1時間。やはり天然記念物の「鎧の袖」という断崖絶壁まで行って引き返す。高さ65メートル、傾斜70度。横目と縦目の柱状節理が、ちょうど鎧の「おどし」のようなので、この名がつけられたという。断崖の前には、インディアン島という、ちょうど横から見ると羽根をつけた酋長さんのように見える奇岩もある。
一番短いコースは湾内を一周するだけでたった30分。海が荒れていて、岩場が危険なときには、このコースになってしまう。
これだけハードルがある上に、乗客が大人5人以上集まらないと船そのものが出ないというきまりになっている。5人以下だと、チケット代をあわせてもガソリン代にもならないからだそうだ。
私が乗ったときは、奇跡的にこの条件がすべて満たされていて、3コースまで行くことができた。もっとも、船が出る直前に強い風がふき、85人乗りの大きな船で出たため、釣鐘洞門のくぐりぬけはしてくれなかったが。
船を下りたあと、今度は海岸線をぷらぷら歩いていった。
50分ほど歩いたころ、遠浅の入り江に小さな宿を発見した。三段に積み上げた岩の上に、海に乗りだすようにして建っている。すぐ下まで波が来て、円い大きな岩をざぶーん、ざぶーんと洗う。目の前には、松の生えた三角形の島が見える。弁天島という、但馬松島のうちのひとつだ。
海は、船からみるより少し緑いろがかっていて、こわいぐらい澄みきっている。
ちょうど通りかかったおかみさんに、話をきいてみた。
宿は昭和37年、まだ海岸一帯が国定公園だったころに建てられた。そのころは規制もゆるやかだったが、その後、国立公園に昇格され、景観を損ねるからというので他に建物が建てられなくなり、たった一軒の宿になってしまったのだという。
貴重な海辺の宿なのだが、町の中心からは離れているし、周囲にレストランや食堂もないので、あまり観光客が来てくれないらしい。
宿の下には階段があり、水際まで降りていくことができる。岩でつくった巨大ないけすには、大小さまざまな魚が泳いでいた。ときには、ぽーんととびあがる元気なものもいる。
生け簀には海の水が流れこむようになっているのだが、深いところで泳いでいた魚の中には、長いこと生きられないものもある、釣ってきたら、なるべく早くさしみにしてお客さんに出すようにしています、とおかみさんは言っていた。
湾内では海草も沢山とれるが、不思議なことに、夏になる前に必ず大しけがきて、全部ちぎれてなくなってしまう。だから、夏休みには湾がきれいで、泳ぐこともできるのだ、という話もきいた。
海に面した部屋はたった六部屋。お風呂は地下で、目の前が海。海水浴のシーズンには是非泊まりに来ますから、と約束して宿をあとにした。
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