【連載】「ヴィンテージ・ピアニストの魅力 第25回 ブルーノ・カニーノ」(音遊人 2018年冬号)

一九三五年にナポリで生まれ、一九六〇年のダルムシュタット国際コンクールで入賞しているブルーノ・カニーノは、とりわけ二十世紀音楽のピアニストとして印象づけられている。プロフィールには、「ブーレーズ、ベリオ、シュトックハウゼン、リゲティ、マデルナーノーノ、プソッティらと多くのプロジェクトを展開」と記される。しかしいっぽうで、クラシックの登竜門であるプゾーニ国際ピアノコンクールに入賞、室内楽奏者としても読譜力と楽曲の洞寮力が高く評価され、アッカルド、バールマン、ムローヴァ、ピエール・アモイヤルなどと共演を重ねている。現在はマドリード国際室内楽研究所で教鞭をとっている。二〇一八年五月二十三日はハクジュホールでの”ヴァイオリンの夕べ”。フランスのヴァイオリン奏者サンドリーネ・カントレッジとのデュオを聴いた。

前半はドビュッシーの『ヴァイオリン・ソナタ』と『亜麻色の髪の乙女』『ミンストレル』などのピアノ曲や、『美しき夕暮れ』など歌曲からの編曲。

テンペラメント豊かに歌い上げるカントレッジに対してカニーノは重めのバスを打ら込んでテンポを崩さず、情緒よりは造形を重んじる傾向にある。ときおりヴァイオリンが息苦しそうに聞こえたが、後半のラヴェルは見事だった。

ラヴェルの『ヴァイオリン・ソナタ』では、ヴァイオリンと完全に対峙してすべての線をくっきりと際立たせる。第二楽章「ブルース」は物憂げに歌うヴァイオリンに対して手首のバウンドを使ったビートを入れる。ときどきしのびこんでくる絶妙の間が、音楽を豊かにふくらませる。このソナタをこれほどおもしろく聴いたのは久しぶりだ。『ツィガーヌ』も、ヴァイオリンを自在に遊ばぜながら要所要所を締めるビアノに聴きほれた。

同月二十七日は、平尾はるなビアノスタジオでのリサイタル。前半はやはりドビュッシーで、『前奏曲集第二巻』から第一曲、第十一曲を除いた十曲。もやもやした霧は一切なく、クリアで明快なドビュッシーだ。かなり低い位置に座り、ひじが鍵盤より下がった状態から前腕の上下動と指のバネを使って弾く。いきおい動作は直線的で、腕や手首をやわらかく使うことはほとんどなく、横への流れは控えめだ。「ヒースの茂る丘」「カノープ」などは、やや縦割りの音楽に聞こえた。

おもしろかったのは第四曲「妖精はよい踊り手」と第八曲「水の精」。指を手前に引き寄せるだけできらめく高音が涌き出る。腕を少し上から落とすだけで深みのあるバスが鳴り響く。音響設計も独特で、ミドル・ペダルとラウド・ペダルを駆使して細かく操作する膝を回転させてリズムペダルをつける。

「風変わりなラヴィーヌ将軍」では、鋭いタッチから生み出されるケークウォークのリズムの、ほんの少しの「間」に秀逸なユーモアが滲み出る。いっぼうで同じシンコペーションのリズムにもとづく「ヴィノの門」では、もう少しふくらみがほしいと思った。

プーランク『三つの無窮動』ではからんと明るいユーモアが好ましかった。
白眉はメシアン『鳥の小スケッチより』。指先を固めて上から響かせる音と、同じ固さでそっと弾くタッチの濃淡にしびれた。

アンコールは”ヴァイオリンの夕べ”でも演奏されたドビュッシーの『ゴリウォーグのケークウォークー(ハイフエッツ編)。中間部もテンポを変えす、有名な「トリスタンとイゾルデ」のテーマも(感動的に〉歌い上げたりしないのだが、ユーモア精神が息づいていてとても楽しかった。

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