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執筆&インタビュー

とっておき私の京都 / 「週刊新潮」 2005年11月25日号

私の京都 とっておき

杉本家

青柳いづみこ
(ピアニスト・文筆家)(1) 

  京格子に犬矢来、軒の上には土塗りの虫籠窓。近頃、滅法持て囃される京町家の中にあって、有数の規模と格式を誇るのが、「杉本家」である。寛保年間に創業された呉服商「奈良屋」の店舗兼住居で、現在の主屋は、1870年に上棟された。四条烏丸の交差点は指呼の間にあり、祇園祭の頃、伯牙山のお飾り所となることでも知られる。現当主はフランス文学者の杉本秀太郎さん。この日は、瀟洒な洋間でパイプを燻らしながら、東京に在住する年少の音楽仲間の訪問を待っていた。青柳いづみこさん――やはりフランス文学者だった青柳瑞穂を祖父に持つ閨秀ピアニストは、到着するや、部屋に据え付けられたピアノに向かう。
 
  「あ、ラモーの『鳥のさえずり』だね。いかがですか、弾き心地は?」「素晴らしいですね。なんといっても歌えるし、極上のワインと料理に遭遇したような幸福感に浸っています」。青柳さんが演奏中のピアノは、ドイツの名門ザイラー社製で1920年代の作。杉本さんによれば、「恩師の桑原武夫先生の家にあったのを、先生が亡くなられた後、奥様からお譲りいただきました」という。「中のアクションだけ、リヒテンシュタインのものに替えて使っています」。ちなみに杉本さん自身、ショパンの夜想曲を弾きこなすほどの腕前を誇る。「原稿の締め切りが迫っても、一日中、ピアノの前に座っていたりする」と呟く杉本さんに、「そのお気持ち、とってもよく分ります」と青柳さん。最近は文筆の方面でめきめき頭角を現しているだけに、「余技で書いているうちは、楽しかった。今はだんだん苦痛になってきました」と苦笑する。すぐそこの四条烏丸の喧騒が嘘のような静寂が広がる杉本家。レトロな洋間には、いつまでも、典雅なロココの調べが流れていた。撮影・田村邦男

アクセス
 杉本家/075・344・5724(奈良屋記念杉本家保存会・正会員毎年 1 口 1 万円)/下京区綾小路通新町西入ル矢田町 116 /東海道新幹線・京都駅下車〜地下鉄烏丸線・四条駅から徒歩3分


プラス1
 膏薬図子/四条新町の交差点から西洞院通へ向かう途中の南側から綾小路通につながる細い道。その昔、空也の念仏道場がここにあったといい、「くうや」が転訛して「こうやく」に。民家の隅に平将門を祀った祠がある。/下京区新釜座町・矢田町/東海道新幹線・京都駅下車〜地下鉄烏丸線・四条駅から徒歩3分  
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