【連載】「花々の想い…メルヘンと花 10」(華道 2004年10月号)

サン=テクジュペリ「星の王子さま」

サン=テクジュペリの『星の王子さま』のバラのエピソードには、世界中の人がしんみりさせられたに違いない。

王子さまは星に一輪のバラの花を残してきた。手のかかるバラだった。自分の美しさを鼻にかけて、王子を苦しめる。何をしてやっても満足しない。風の吹いてくるがこわいからといって、ついたてを取ってこさせたり、ガラスの覆いをかけさせたりする。

星を出る決心をした王子が水をやってガラスの覆いをかけようとすると、バラは、本当はあなたが好きなんです、覆いガラスなんて、いりませんわと言う。

旅に出た王子は、砂原と岩と雪をふみわけて、バラの花の咲きそろっている庭に出た。星に残してきた花とそっくりそのままのバラが五千ほども咲いている。

そこで王子は気がついた。自分は、この世にたった一つの珍しい花をもっているつもりだった。ところが実は、あたりまえのバラの花を持っているきりだった。

このあと王子はキツネに会って、自分が世話をしてやり、自慢話をきいてやったバラの花が、世界に一つしかない「自分の」バラだったことをさとるのだが、当のバラの花のモデル、サン=テクジュペリの妻コンスエロの書いた本を読むと、彼女がやっぱりあたりまえのバラ・・・つまり、普遍的な女性だったことがわかる。

『バラの回想』という、受け取り方によっては強烈な皮肉にもきこえる本の中でコンスエロは、サン=テクジュペリの一方的な見方をことごとくひっくり返してみせる。

つれなかったのは、夫の方なのだ。妻を置いてきぼりにして浮気を繰り返す。にもかかわらず、妻に甘え、事故に逢ったり病気になったりすると彼女を呼び出す。自分は愛人を持っているのに、妻には貞淑さを要求し、ストーカーのようにつけ回す。

もっとも、コンスエロも人のことは言えない。情熱的な彼女は、いろいろな男に一目惚れをくりかえし、そのたびにサン=テクジュペリの元を去ろうとするのだが、最後の瞬間に思いなおす。だから、このドラマは「どっちもどっち」とした方がいいかもしれない。

小川未明の短編『野ばら』は、感動的な話だ。二つの国の国境を二人の兵士が守っていた。大きな国の兵士は老人、小さな国の兵士は若者。国境には匂いやかな野ばらが咲いていて、ミツバチが楽しげに飛んでいる。

ところが、両国が戦争を始めたため、小さな国の兵士は戦場に行ってしまった。ある日、国境に旅人がやってきて、小さな国が戦争に負け、兵士は皆殺しになったと告げる。

老兵がうとうとしていると、彼方から小さな国の軍隊を引き連れた若者がやってくる。老兵に黙礼した若者は、美しく咲いた野ばらの匂いをかいだ。声をかけようとしたところではっと目がさめた。

2004年10月17日 の記事一覧>>

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