【連載】「よむサラダ 肩こり」(読売新聞 2001年7月22日)

ピアノと文筆で二重の職業病
    鍼灸院で「週一」リフレッシュ

リサイタルやレコーディングの前には1日8時間ほど、普通の日でも3~4時間はピアノを弾いているのだから、肩こりは職業病である。そのうえ文筆業まで加わるから、余計話はややこしい。文学者の方には書痙という職業病があり、ひどいときは手が全く動かなくなってしまうという。ワープロやパソコンを使うようになると、同じキーボードだから、ピアノ演奏と同じように肩こりを起こしやすい。

私の場合は、単行本の準備で長い間パソコンに向かっていると、てきめんに腰が痛くなる。勤め先の大阪音大に行くとき、新幹線のぞみの二時間半がつらい。それで飛行機を使うと、今度はピアニストの商売道具である耳が少しおかしくなる。全く、どちらもいいことがない。

不思議なもので、ピアノを弾き始めると、腰痛はすっかり治ってしまう。それはいいのだが、今度は肩甲骨の裏側や腕のつけ根や指の腱が痛くなる。

以前は鍼の先生に自宅に往診していただいていたが、今は駅近くの鍼灸治療院に週に一度通っている。最初にマッサージを受けたとき、「?」という感じだった。温泉地などのマッサージと違い、全然痛くない。適度に湿り気のあるやわらかい手のひらでていねいにもみほぐして下さる。こりのひどいところは、鍼を打ったりお灸したりする。ちょうど長い間座っていたあとのように、練習で酷使した指先のしびれがなおり、チクチクするのが面白い。背中を棒灸であたためている間、足の裏などもんでいただくと、あまりに気持ちがいいので、ついとろとろまどろんでしまう。治療の最後に先生は、肩から腰にかけて何度も手をすべらせる。そうすると、悪い「気」が流れ出ていくのがわかるような気がする。

治療中、さりげなく、おなかをこわしませんでしたか、背中から冷房が当たっていませんか? と質問される。あわてたのは、最近、お酒をたくさん召し上がる機会はありませんでしたか? と聞かれたときだ。どうも足の方に関連のツボがあり、そこが張っているかどうかでわかるらしい。私は、もうろうとした頭を一生懸命めぐらせ、そういえば一度、出版関係のパーティーでワインを何杯かおかわりしました、と答えた。

実は、毎晩ビールやら焼酎やらをぐびぐび飲んでるんだが、そんなこといえないもん。

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