この一点「ドビュッシー 音楽と美術展」(日本経済新聞 2012年8月25日)

羽衣の令嬢に捧ぐ思い
モーリス・ドニ「イヴォンヌ・ルロールの3つの肖像」

モーリス・ドニ「イヴォンヌ・ルロールの3つの肖像」は、忘れがたい印象を残す作品である。画面の中央には、白い衣装をまとった高貴な令嬢。まあ、なんとスタイルがよいのだろう。ファッションモデルのような小顔。ひたとこちらを見据えるやや鋭い目、謎の微笑を浮かべた口もと。32歳のドビュッシーは、この夢のような美女に「映像」というピアノ組曲を捧げている。「これらの作品は」と、ドビュッシーは献辞に書く。「照明で輝くサロンを恐れます。そこには、音楽があまり好きではない人々が集まるのです」貧しい家に生まれ育ったドビュッシーは、どうしても上流階級のサロンになじめなかった。でも、上流階級の令嬢のことは大好きだった。やがて身分違いの片思い(?)は終わりを告げ、イヴォンヌは結婚してルアール夫人と名前を変える。失意のドビュッシーは「映像」をお蔵入りにしてしまう。生前は未刊の「映像」のうち、第2曲「サラバンド」だけは、少し音を変えて「ピアノのために」に組み込まれ、改めてルアール夫人に献呈された。宮廷舞踊を模した典雅な「サラバンド」を弾くたびに、ドビュッシーの熱い想いが伝わってくるような心持ちがする。

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