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聞き手・文ー歌崎和彦

「フランスの粋」が香るデュオクリストフ・ジョヴァニネッティ(ヴァイオリン)&青柳いづみこ(ピアノ)

ヴァイオリンのクリストフ・ジョヴァニネッティ氏と青柳いづみこさんにお話を伺ったのは、お二人が東京でデュオ・コンサートを開く直前の昨年9月中旬のことだった。お二人は2011年にも東京で共演されているが、今回は初のデュオ・アルバムが国内盤仕様で発売されるのに合わせて、日本での二度目のデュオが実現したわけである。なお、青柳さんには通訳もお願いしたため、ご本人にはひとり二役の大変忙しいインタヴューになってしまったが、そのおかげでジョヴァニネッティ氏はとてもリラックスして語って下さった。

◎ユニークな選曲に「こだわり」が凝縮

− フランスのヴァイオリン・ソナタのレコードはこれまでにもありましたが、今回のディスクはドビュッシーの〈ミンストレル〉などの編曲に加えて、オーレッジが12小節の未完の作品を補完した《セレナーデ》が入っているなど、とてもユニークな内容ですね。

ジョヴァニネッティ(以下Gと略)青柳さんはドビユッシーの専門家ですし、《セレナーデ》は2012年に私たちが初演したので、ぜひ入れたいと思っていたのです。また〈ミンストレル〉や《レントより遅く》の編曲版はティボーなどの録音はありますが、最近はほとんど演奏されないので、取り上げる価値があると考えて選びました。

青柳(以下Aと略)オーレッジが補筆完成した《セレナーデ》は、元々はオーケストラ版だったのですが、ヴァイオリンとピアノ版があるかときいたら、データを送ってくれたので、レコードにも入れることにしたのです。

− ピアノ曲でお馴染みの作品が入ることで、変化がつくとともに親しみやすいものになりましたね。

G ヴァイオリン・ソナタはドビュッシーがあらんかぎりの力をこめた作品ですが、私は小品にも同じような力を感じますし、ピアノ曲とはまた違った魅力があると思います。

A 〈ミンストレル〉の編曲はドビュッシー自身ですし、そこに付け加えられたヴァイオリン的な技法によって、当時のボードヴィルの雰囲気がピアノで弾く以上にいきいきと浮かび上がってくるのではないでしょうか。ドビュッシーにつづいてピエルネのヴァイオリン・ソナタが入っていますが、ジョヴァニネッティさんは普段からよく演奏されるのですか。

G ピエルネはこれが初めてでした。

− レコード・ファンには、ランパルが演奏した作曲者編のフルート版の方が有名かもしれませんが、それ以上に変化に富んでいて、第2楽章など、とても魅力的でした。

G 予測できないような転調が多くて、演奏者にとっては難しい曲なのですが、そこがまたとてもフランス的ですし、ドビュッシーほど前衛的ではないですが、フランクやサン=サーンスほどドイツ的でもない、そうしたところを楽しんで頂けたら嬉しいですね。フルート版は音域的な制約がありますが、その点ヴァイオリンの方がいろんなことができるので、可能性が広いように思います。

− 第2集の計画はおありですか?

G 一集目も実現までなかなか大変だったので、ホッとしているところなんですが、第2集もつくれると嬉しいですね。

◎出会いはマルセイユ音楽院 二人で「ゾーン」に入る快感

− お二人はともにマルセイユ音楽院で学ばれていますが、デュオとして活動するようになったのは比較的最近だそうですね。

A  当時はピアニストのピエール・バルビゼが院長をしていたのですが、指揮者だったジョヴァニネッティのお父さんとも親しかったので、ピアノの弟子ではありませんでしたが、とても可愛がられていたんです。そして、私がマルセイユに行った時、彼はすでにヴァイオリン科は卒業していたのですが、学内のコンサートでベートーヴェンの《クロイツェル・ソナタ》を一緒に演奏することになって、その時バルビゼの指導を受けたのです。

− ご一緒に指導を受けたのはごく短期間だったわけですね。

A ええ、彼はすぐにブカレスト音楽院に行ってしまい、私は日本に帰ったのでマルセイユで一緒だったのはごく短い期間でした。

− デュオを組まれたのは2009年からということですが。

A パリの日本文化会館で、確か武満とドビュッシーというテーマでレクチャー・コンサートを頼まれた時に、彼にヴァイオリン・ソナタを弾いてもらったのが最初で、それから定期的にデュオを組むようになりました。ただ、それ以前にも彼はイザイ・クワルテットとして、またパリ管のメンバーとしても何度か来日していましたし、私もドビュッシーの論文を書くために何度もパリに行きましたので、交流は続いていたのです。そして、パリでのデュオを聴いて下さった方たちが口をそろえて、本当に息が合っているし、一緒に呼吸して一緒に聴き合って演奏していると言って下さり、それでまたやってみようか、ということになったのです。

G デュオにもいろんな形があるでしょうが、ある特別なゾーンに入ると、よく知っている譜面でもそれがとても新鮮な感じになることがあり、その楽しみがあるから喧嘩をしながらも一緒にやっていけるんです(笑)。

− 単に息が合うだけでなく、お互いの演奏にいい意味で刺激を受けるわけですね。

A フェラスとバルビゼのデュオも、フェラスが非常に自由な感じであるのに対して、バルビゼの方は構築性があって全体をうまくひき締めているように思うのですが、それと同じような関係なのかもしれません。そこまで行ってしまうと音楽の形が崩れるので、ちょっと戻ってくれというわけです(笑)。

◎《クロイツェル》でのバルビゼのレツスン

− バルビゼさんのレッスンで特に印象に残っているのはどんなことでしょう。

A ベートーヴェンですと、分厚いピアノのパートをいかにヴァイオリンを消さないように、かつバスもきちんと演奏して、ハーモニーが立ち上がるようにといったことでしょうか。そういったテクニックをとても細かく、丁寧に教えて頂きました。

− そういう面では非常に具体的な教え方だったわけですね。

A ソリストを自由に遊ばせておいて、しかし、ここはきちっと締めろといったテクニックも含めてとても具体的でしたし、本当にデュオを知り尽くした方でした。

G ぼくは夏期講習でフェラスにも習ったことがありますが、非常に力強く、かつソリストとしても輝きにあふれたヴァイオリンでした。しかも、ヴァイオリンを輝かしく響かせるだけでなく、音楽的な深さと力強さを兼ね備えた人でした。

− ジョヴァニネッティさんはイザイ・クワルテットとしてデッカにいろいろ録音されていましたが、途中で退団して新たにエリゼ・クワルテットを組織されましたが……。

G クワルテットを脱退するには個人的、音楽的理由をはじめ4人の関係も含めて千もの理由があって、一言ではとても言えません(笑)。イザイ・クワルテットの時はケルンでアマデウス四重奏団に学びましたが、クワルテットが彼らのように最後までうまく行くのは奇蹟的なことですよ。それができなくなると、結局ルーティン・ワークになってしまいがちで、そこに問題が起きるのです。

− イザイ・クワルテットを退団して、新たにエリゼ・クワルテットを結成されましたが、それも昨年辞めてしまわれたのですか。

A そうなんですよ! 95年に結成して、これも10年ほどしたら、辞めちゃつたんです。

◎ジョヴァニネッティの揺るがぬ「こだわり」

− ジョヴァニネッティさんはジクザグ・テリトワールに録音されていますが、ハイドンとウェーベルンを一緒にやったり、とてもユニークでした。

G あれは弦楽四重奏の最初の作曲家ハイドンとその音楽が帰結するところにウェーベルンがいると考えて組み合わせたのです。

− エリゼ・クワルテットはロシア人2人、フランス人2人という珍しい構成でしたね。

G 最初はロシアとフランスの二つの要素を兼ねそなえた四重奏団をめざしてはじめたのですが、ロシア人のヴィオラ奏者が癌のために演奏できなくなってしまったのです。彼が4人の均衡をとってくれていたんですが、いなくなったためにいろんな問題が出てきて、結局今年の2月に退団したのです。

A 音楽面では決して妥協しない人ですから、私もしょっちゅう喧嘩していますし、テンポはもちろん、フレージングひとつとっても非常にこだわりが強いんです。

− その点は、青柳さんもかなりこだわりが強いタイプではないですか(笑)。

A いえ、私はそれほどではありません(笑)。彼のお父さんが指揮者だったことも関係しているんでしょうが、全体をきちんと把握していないと駄目なんです。例えば、〈ミンストレル〉のちょっとしたルバートとか、ピアノの合いの手の入れ方とか、そういうちょっとした遊びに凄くこだわるんです。

G みんながあまり弾かない曲というのは、やはり技巧的にも難しいところがあるし、しかも短い曲なので工夫というか、こだわりも必要なのです。

A こだわりが見えてしまうと、作為的になってしまいますし、そうしたことをとても良く探すというか、わかる人なんですが、時々それが過剰になることもあるんです。

G 私としては、ほかの人がやったことのイミテーションではなく、自分の解釈、頭だけでなく感じたことを常に探していきたいと考えており、そのためにこだわりが強いと思われるのかもしれませんが……(笑)。

− 今日はどうもありがとうございました。

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クリストフ・ジョヴァニネッティ(ヴァイオリン)

パリ音楽院、ブカレスト音楽院に学び、さらにドイツでアマデウス四重奏団のもとで研鑽を積む。1984年にイザイ弦楽四重奏団、ついで1995年にエリゼ弦楽四重奏団を結成、デッカ、ハルモニア・ムンディ、フィリップス、ジグザグ・テリトワールでの録音を遺している。室内楽奏者としても、デュメイ、ミンツ、ピリスらと共演、演奏活動と平行して、パリ国立高等音楽院教授として後進の指導にもあたっている。

青柳いづみこ(ピアニスト・文筆家)

安川加壽子、ピエール・バルビゼの各氏に師事。フランス国立マルセイユ音楽院首席卒業。東京芸術大学大学院博士課程修了。演奏と執筆を両立させる希有な存在として注目を集め続け、師安川加壽子の評伝『翼のはえた指』で第9回吉田秀和賞、祖父の評伝『青柳瑞穂の生涯』で第49回日本エッセイストクラブ賞、『6本指のゴルトベルク』で第25回講談社エッセイ賞、CD『ロマンティック・ドビュッシー』でミュージックペンクラブ音楽賞を受賞している。近著は『アンリ・バルダ神秘のピアニスト』(白水社)。日本ショパン協会理事。大阪音楽大学教授。

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