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新譜この人いちおし

ドビュッシーの「歌」をめぐって

すぐれたドビュッシー弾きとして知られる青柳いづみこは、ピアニストという肩書きをすでに軽々と超えてしまっている存在である。様々な分野に造詣の深い青柳は、ピアニストに加えてすぐれた文筆家という顔ももっている。彼女の洒脱かつ味わいのあるエッセイはすでに多くのファンを獲得しており、彼女こそ、今や数少なくなったスケールの大きな文化人といえる存在だろう。そんな青柳が、このほど待望のドビュッシーの新録音をリリースし、同時期に初めて小説を上梓した。まさに八面六臂で活躍中の彼女ならではと言えるだろう。

「今回、奇しくも共通するテーマのCDと小説を同じような時期に出すことになりました。ドビュッシーのアルバムは、初期のロマンティックな歌がテーマです。元来ドビュッシーは旋律の扱いが独特で、美しい歌が盛り上がる前に中断してしまうことが多かったのです。音楽学者のジャンケレヴィッチが述べているように、イタリア・オペラのような感情を表現することへの躊躇や羞恥心があったのではないかと思います。今回のアルバムでは通常知られているドビュッシーとは異なる比較的息の長いメロディーをもつ作品も聴いていただけると思います。たとえば『夜想曲』はそのいい例ですね」

ロシア風の響きが見え隠れしている「バラード」、おなじみの「2つのアラベスク」や「ベルガマスク組曲」、そして「夢」など、ドビュッシーの初期のエッセンスを知るにも格好のプログラミングになっている。細部まで練り上げられた青柳のピアノは、ドビュッシーの美しい歌に自然な息吹を吹き込むかのようだ。

そして小説第一作となった『水のまなざし』(文藝春秋社刊)でも“声”と“歌”が重要な役割を果たす。 「自伝的な要素も含まれている小説なのですが、主人公の音大付属高校ピアノ科在学の真琴が、声を失う、声が出なくなる、という点が重要なのです」 物語はインフルエンザをきっかけに声を出すことができなくなった真琴が、祖母のいる美しい田舎での生活や人々との交流を通じて、成長していく姿を描いている。小説は真琴がなんとか声を出せるようになったところで終わる。多感な少女の日常が興味深く描かれており、繊細さと残酷さを併せもつ少女の独特の感性が、磨き抜かれた格調高い文章で綴られている力作である。

さて、青柳によれば、初期のドビュッシーの歌は、その後、変化を見せていくという。 「ドビュッシーでは、旋律的なものが、以後、和音や響きによるメロディーに変化していくように思います。たとえばオーケストラのための『夜想曲』には印象的なメロディーがありますけれど、それは単独の旋律というよりも、多声の 響きが織りなしていくものですね」

録音が行われたのは、すぐれた響きで定評のある三重県総合文化センター。「ドビュッシーの音楽は、ピアノが美しいハーモニーを奏でることがとても大切なので、調律の方にうまく響くようにピアノを調整してもらいました。私は録音では、収録したものを編集する作業がとても好きなんです。編集作業は創作と似ているのではないでしょうか。曲によって、一気に弾いたものを録音したり、少し細かく収録したりしましたけれど、それらを編集して仕上げていく作業は本当におもしろいと思いました」

これまで数多くのディスクをリリースしてきた青柳だが、今後はドビュッシーを継続して録音する計画もあるという。「これまでさまざまなテーマで録音を行ってきましたが、また新たなテーマに沿ってドビュッシーを録音できればいいなと思っています。それから小説の方は、『水のまなざし』の反響次第というところもありますけれども、いくつかあたためている計画があります」

「水のまなざし」 に魅せられた読者ならば、必ず、主人公の真琴がその後、どんな声、どんな歌を見いだしたのか、非常に気になるところである。青柳ならではの知性あふれる次回のドビュッシー・アルバムとともに、小説の続編もぜひ期待したい。
取材・文:伊藤制子

ロマンティック・ドビュッシー
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