【書評】「ピアニストは指先で考える」婦人公論 2007年7月22日号 評・渡邉十絲子

ショパンも自分の曲を譜面どおりに弾かなかった? 衝撃と魅力溢れる演奏論

ピアノを弾く人にとっては常識なのかもしれないが、冒頭からわたしは衝撃を受けた。ピアノを弾くには、掌に卵をもつときのように指を曲げ、指の先端部分で弾くのが当然だと思っていたのだが(それはわたしの世代が近所の「ピアノのせんせい」たちにきびしく強制された方法なのだ)、指を伸ばした状態で、指の腹で鍵盤にさわる人も多いというのだ。そういえば、指をくいっと曲げたまま弾くピアニストは、そうたくさんはいない。これは、弾く人の手や指の形にもより、また何を弾くかによっても適した奏法が変わるということらしい。著者が得意とするドビュッシーの曲などは、曲げた指で叩くように弾いては魅力が出ないのだそうだ。目からウロコでした。

本書は、ピアニストによる演奏論である。読めば読むほど、驚くべきことが書いてある。たとえば作曲者の譜面にどこまで忠実に従うべきかという問題に対しても、「偉大な音楽家といえども、弾くときと書くときでは人格が変わる」。ベートーヴェンもショパンも、自分の曲を自分で書いた譜面どおりには弾かなかったのだ。へえー。もちろん、後世のわれわれが勝手な解釈を加え、曲想を変えてしまうのはだめだが、しかし譜面に忠実であることを誇るあまり、譜面に書いていないことへの想像力(と創造力)が欠如するのがいちばんよくないとか。

楽器演奏者は、卓越した技術を習得する過程で、ある「型」を獲得する。しかしその「型」とその人固有の身体と切っても切れない関係にある。手の小さい人も、指のかたい人も、爪の弱い人も、ピアニストになる。一般的によいとされる規範はあるけれど、自分に最適な方法は自分で見つけるしかない。ピアノの素人にもはっきりわかる。それがどんなに魅力的な旅路であるか。

ピアニストは指先で考える(単行本)
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