【書評】「ピアニストは指先で考える」音楽の友 2007年7月号 評・山野雄大

素敵なタイトルの本は、それだけで手元におきたるなるものだ。最近の筆頭は『ピアニストは指先で考える』。・・・・なるほど、言いたいことは直感的にすべて伝わるけれど、だからこそ、胸に指先を置かれたようなごく軽い感触が好奇心を刺激する。指先で考える?

ピアニスト・文筆家として活躍する青柳いづみこの新刊は、ピアノ雑誌『ムジカノーヴァ』の連載をまとめた一冊。もとはといえば、実際にピアノを習ったり演奏家を目指したり、楽器と本格的なおつきあいをしている読者に向けて書かれた文章だ。

したがって、話題はピアノをめぐって大きく逸れることはない。しかし視野は十分ひろく、指のかたちや座りかた、具体的な演奏テクニックに練習法、はたまた教育法からピアニストしての生き方に至るまで、ちょっと他にない自在な語り口であれこれ。ピアニストとして長年の経験を持つ著者ならではの着眼点・・・はプロ奏者にしか役立たないかというと、決してそんなことはない。聞き手が客席から「見る」ピアニストには、舞台上でなにが起こっているのか・・・・。楽器と通じ合う秘密を一端でも教えてもらっていれば、響きに反応する耳はより敏感にアンテナを立てるはず。CDで聴く耳にも、響きを解きほぐす想像力にヒントをくれるだろう。

また、文筆家としても高く評価されてきた著者ならではの、妙味と品格ある(しかし表情がときにたっぷりユーモラスな)文章が、いよいよ絶妙なバランスで響いている。教則本でも指南書でもなく読みやすいエッセイとして、漆黒の美しい楽器に理想を追う人生の愉しさを伝えてくれるのがいい。音大の副科ピアノを論じて音楽の本質をつくあたり、実際に教えている人ではならではの指摘だし、演奏会開催などについて肩肘張らず内実を語るなど、この著者にしか書けない本だろう。音楽の生まれる瞬間と場を愛する者にとって、じわじわ嬉しい一冊だった。

ピアニストは指先で考える(単行本)
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