【書評】「ボクたちクラシックつながり」TBSラジオ森本毅郎スタンバイ! 2008年2月28日 評・岡崎武志(書評家)

いま話題の二ノ宮知子作『のだめカンタービレ』というマンガをご存知でしょうか。クラシック音楽の世界を舞台に、野田恵(のだ・めぐみ)という主人公が、ピアニストを目指すという話で、現在も連載継続中です。

彼女はゴミだらけの部屋に住み、ダメな女の子なのですが、ピアノ弾きとして天才的な技量を持っているという設定。これが大ヒットしまして、テレビドラマやアニメにもなった。そのほか、同じく天才ピアニストの少女を主人公にした過去のマンガ、さそうあきら『神童』、一色まこと『ピアノの森』も昨年映画化されました。クラシック音楽のことが、非常にくわしく描かれ、クラシックに縁のなかった人たちを巻き込んで、ちょっとしたブームになっている。

そこで、ピアニストの青柳いづみこさん、ドビッシー弾きとして著名な方ですがこれらの音楽マンガを読みながら、ぼくたちがうかがい知れないクラシック音楽のこと、演奏家たちのことをやさしくわかりやすく語ったのがこの本です。

青柳さんは現在大阪音楽大学教授ですが、非常に筆のたつ人で、著書も多い。『青柳瑞穂の生涯』は、日本エッセイスト・クラブ賞を受賞した名著ですが、祖父でフランス文学者の青柳瑞穂さんのことを書いた本。あの青柳瑞穂の孫です。

まずピアノの弾けない僕が驚くのは、ピアニストがコンサートなどで演奏している姿を見て、よくあんなに指が動くな、間違わずキーを叩けるな、という素朴な感動。

超能力者に思えてしまう。あと、ただおたまじゃくしが並んだだけの楽譜を一度見ただけで、演奏ができるのも不思議。これ、「初見」というそうです。あと、楽譜をみんな覚えて、楽譜なしで演奏する「暗譜」。ピアニストの不思議。最初、そのあたりから説明されます。

音楽大学の試験などには必ず「初見」がある。知ってる曲だとダメですから、誰も弾いたことのない曲が、試験用にそのために作曲されるそうです。試験前に楽譜を見せられ、次に演奏する。「のだめ」でもやっぱり大学へ入る時に初見のシーンがありますが、のだめは失敗する。のだめは「暗譜」は得意で、青柳さんによると、初見の苦手な人は暗譜が得意、という方程式があるらしい。「暗譜」、譜面を覚え込むには、繰り返し演奏して指に覚えこませるしかない。あとは、譜面づら、音符の並びを絵のように覚えるというんです。いずれにしても大変なことで、青柳さんもいまだに暗譜で苦しむ夢を見る、という。

指揮者について語られた章もあります。指揮者にはなぜかピアニスト出身者が多い。青柳さんによれば、「ピアノという楽器は、イメージ次第では人の声にもなるし弦楽器にもなる、魔法の楽器」で、弾きながら自分でオーケストレーションしているようなところがあるらしい。

バレンボイムはピアニストであり指揮者の代表格ですが、少年時代のバレンボイムのピアノを聴いた指揮者のマルケヴィッチが「お宅の息子さんは見事にピアノを弾きますが、彼の演 奏ぶりを見るに、彼は本当は指揮者ですよ」と言った。カルロス・クライバーは、すぐれた言語表現でオケをひっぱった。木管をやや目立たせたい時は「女性の寝巻きを透かして見ると胸に興味深い突起がありますね。木管はその突起です!」なんて言った。指揮者によってオケが鳴る、鳴らないなんて言いますが、それは最後は「人間性」にかかっている、というのも印象的な話でした。

さて、実際にプロの演奏家、指揮者になってからの話も最後に書かれていますが、これは大変みたいです。ピアニストのCDは、一万枚売れたらメガヒットで、たいてい実売は数百枚で、千枚プレスして、あとはピアニストが自分で買い取る。だからたいてい赤字。コンサートもほとんど自主公演で、満席になってトントンが実情。演奏による年収が一千万超える演奏家は数十人。収入ゼロの人が二万人も。

しかるに、私立の音楽大を出るには学費だけで一千万円、留学すれば4年で最低二千二百万もかかる。あと、レッスン料、楽器もいいものはべらぼうに高い。プロになっても、とても回収できない。

それでも音楽家を続けるのは、それだけ音楽に離れがたい魅力があるから・・・・

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