【関連記事】「我が偏愛のピアニスト」ザ・フェニックスホール情報誌 Salon 2011年3月

Essay de say エッセイでっせ「継続」

『我が偏愛のピアニスト』という書を中央公論新社から上梓したところである。日本人ピアニスト9人にお話を伺い、まとめたものに、練木繁夫さんとの対談を加えている。

同じタイトルで某ピアノレスナー向けの雑誌に連載していたのだが、 内容がむずかしすぎる」という理由で打ち切りになってしまった。どこがむずかしいんだろう? 子供のころからの音楽体験、先生との相性、コンクールや留学の話、成功と挫折、ピアノ奏法談義。どれも「ピアノのおけいこ」の延長線上にあるものだと思うけれど。

幸い、単行本化が実現したので、大幅に書き足し、手を入れた。ひと口に日本人ピアニストといっても、顔ぶれはさまざまである。海外を拠点に国際的な活動をしている方、日本でさかんに活動している方、伝説の名ピアニスト、同世代の留学仲間。いずれも、私の演奏人生とどこかで接点のある方々である。だから、間接的に自分のことを語ることにもなった。

恩師安川加壽子先生は、長い目でものを見る方だった。十年先、二十年先を見据えて演奏プランを設定していく。生徒に対しても、長い、温かい目で見守ってくださった。だから、長いスパンでの演奏人生に興味がある。若いころ嘱望されても、いつの間にか活動をやめてしまうケースもあるし、 ある時点から急に名前が出てくるケースもある。

その違いはいったい何なのか、何がきっかけなのか。

今回お話を伺った方々は、ある程度キャリアを積んだピアニストが多いから、ふし目ふし目でいろいろなことがあり、それでも二十周年、三十周年(五十周年の方もいらした)記念の演奏会を開くなど、 コンスタントに活動をつづけてこられた。演奏会が少なくても大変だが、多すぎてもまた大変なのである。心身のバランスをとりながら、いつもフレッシュな気持ちでステージに臨むのは並大抵のことではない。

演奏スタイルにも流行があり、時代の波に乗ったり乗らなかったりする。次々に新しいピアニストがデビューして、活動の場が奪われていくこともあるだろう。

そこで継続の原動力となるのは、謙虚な姿勢と音楽を愛する心。これに尽きる。「人が見ていなくても咲く花がある」という海老彰子さんの言葉、「やっと入り口まで来たという思いなんです」という柳川守さんの言葉には、本当に感動した。

演奏と執筆の二刀流はきつくて、ときに勉強する時間がまったくとれないこともあり、ひとつに絞ってしまったらどんなに楽かと思うことも二度や三度ではないのだが、インタビューを通していただいた貴重な言葉を胸に、また新たな気持ちでピアノに向かっている。

我が偏愛のピアニスト(単行本)
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